新型コロナウイルス感染症は、睡眠にどのような影響を及ぼしたのでしょうか?
「睡眠」は健康に欠かせないものですが、不安や不確実なこと、もしくは今までとは異なる日常に直面しているときに大きな影響を受けます。この事について、多くの人々が眠れない日々を過ごすこととなった今回の「新型コロナウイルスの世界的流行」は、世界の人々の睡眠にどのような影響を及ぼしたのでしょうか。
新型コロナウイルス感染症の世界的流行以前から、多くの人々にとって「睡眠」にまつわる課題はやっかいなものとなっていました。調査をした結果、米国の成人の35%、高校生の年代の70%が、推奨される1日あたり7時間の睡眠がとれていないと推定されていました。新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、身体的健康の緊急事態を及ぼしたのみならず、かつてないメンタルヘルスの危機も世界中にもたらしており、人々の睡眠スケジュールを大きく変化させています。毎日の通勤がなくなり、在宅勤務という柔軟な働き方ができるようになったことで、これまでより睡眠時間を長くとれるようになった人もいますが、日々の生活が突然変わったことで睡眠の健康に有害な影響を受けた人もいます。
「睡眠不足」は、循環器疾患、がん、高血圧、肥満、糖尿病、そしてあらゆる原因による死亡など、健康に悪影響をもたらします。また、うつ病などの精神的疾患を引き起こすこともあります。「睡眠研究」はSRIが重視している分野であり、当社のヒューマンスリープリサーチプログラム(Human Sleep Research Program)は健康に及ぼす悪影響から人々を守るべく、この新型コロナウイルス感染症の世界的流行が睡眠にどのような変化をもたらしたかを理解することに力を注いでいます。
SRIの研究チームは、59カ国の6,882名を対象とした調査を2020年の4月と5月に実施しました。この調査では、睡眠の健康について様々な集団を対象に、新型コロナウイルスの世界的流行に関する要因、心的状態(気持ち)などの項目で測定しました。
Sleep Health誌に掲載されたこのグローバルな規模の調査結果からは、感染症大流行の初期に、半分を超える人々の就寝時間と起床時間が遅くなり、3分の1超に睡眠障害が増加したことが分かりました。特に、以下のことがわかりました。
• 調査対象の約58%が、普段よりも就寝時間が遅くなった、またはかなり遅くなったと回答し、50%弱が普段よりも起床時間が遅くなった、またはかなり遅くなったと回答しました。
• 調査対象の約30%が、普段よりも睡眠時間が短くなった、またはかなり短くなったと回答した一方、25%弱が普段よりも睡眠時間が長くなった、またはかなり長くなったと回答しました。
• 調査対象の約39%が、普段よりも寝つきが悪くなった、またはかなり悪くなったと回答し、35%弱が新型コロナウイルスの世界的流行以前よりも夜中に起きる回数が多くなった、またはかなり多くなったと回答しました。
• 年齢が高いこと、高所得国に住むこと、そしてパートナーがいるといったことは、すべて良好な睡眠健康と相関がありました。
• 解雇または自分が行う事業の閉鎖、在宅勤務への移行が困難なこと、十分な食料または健康に良い食べ物を入手できないこと、重要な請求書に対する支払いができないこと、そして家にいる他の大人との口論が増えたことなどが、睡眠健康の低下と有意な相関関係がありました。
新型コロナウイルス感染症は、世界中の人々の昼夜の日常生活に思いがけない影響を及ぼすと同時に、「正常な睡眠スケジュール」を維持することがいかに難しいかを裏付けることとなりました。健康な睡眠は健康全般にとって重要ですが、幸いなことに「ライフスタイルを少し変えること」で睡眠をより良いものに修正することができます。ソーシャルディスタンスをとりながら屋外で過ごす時間を増やし、陽の光を浴びて身体の活動量を増やすこと、そして規則正しい睡眠習慣を保つこと(一週間を通して同じような時間に就寝・起床し、睡眠不足や寝すぎを防ぐこと)。この簡単な2つの方法を行うことで、他者との接触を極力減らし、医者に行くことなく睡眠を改善できるのです。
睡眠障害を予防・監視・治療すべく、公衆衛生に携わる人が一般市民に対して睡眠の健康を啓蒙し、これにより新型コロナウイルス感染症の世界的流行下や今後伝染病が流行した際に、睡眠と健康全般の強化に一役買うことも重要です。
SRIの研究者たちは、新型コロナウイルス感染症に伴う「ロックダウン」が世界中で人々のメンタルヘルスにどのような影響を及ぼしたかについても情報の収集、発表を行っています。詳しくはこちらをクリックしてください。