マシンに命を吹き込み、ロボットが活躍する未来を目指す
SRIの英語ブログでは、2021年11月の75周年を迎える日まで、SRIが設立された1946年から現在に至るまでの数々の画期的なイノベーションに関するブログを毎週リリースしています。こちらの「75年間のイノベーション」シリーズでは、その中からいくつかを日本語にてご紹介しています。
「ロボット」というコンセプトは、今後も半永久的に存在し続けます。既に何十年も前から「ロボットの未来像」は書籍や様々なメディアにはあふれており、SRIインターナショナルも自社の75年の歴史の中でロボティクスを実現するために一貫してこの分野に取り組んできました。SRIの研究と実用化に向けての取り組みは、ロボット工学をまさに今この場に実現するとともに、その先にあるものも垣間見せてくれます。ここでは、過去75年の間にSRIが手掛けたロボット工学・ロボティクスのイノベーションをいくつかご紹介します。
過去のロボットたちはロボット工学・ロボティクスの未来をいかに確立したのか
SRIはこれまでに、ロボティクスの分野で世界初となるいくつかの開発に携わってきました。SRIのロボティクスは、おそらくロボット界における祖先に当たる「シェーキー”shaky”」から始まりました。人工知能(AI)のエコシステムを統合したこの「不安定な(シェーキーな)」第一歩から、ロボット外科医(ロボットによる外科手術)やエクソスーツ(筋肉を増補するスーツ)が生まれました。SRIはこれまでの取り組みを基に、最新のロボットシステムを構築してロボティクスを推進しています。
ロボットのシェーキー(Shakey the Robot)
世界で最も愛されているロボットの1つである「シェーキー(shaky)」は1960年代に誕生しました。コンピューター歴史博物館(Computer History Museum)の歴史学者であるジョン・マーコフ(John Markoff)によると、シェーキーを「自動運転車や軍事用ドローンの先祖」と呼び、複数種の人工知能(AI)を1つのロボットユニットに統合したことにより、その後のロボット工学の進む道を示したと表現しています。誕生から71年目の2017年には、シェーキーはその技術的な功績が認められ、権威ある「第174回IEEEマイルストーン(174th IEEE Milestone for technical achievements)」を受賞しました。
Da Vinci(ダビンチ)/手術ロボットとTaurusロボットシステム
SRIは長年にわたり、医療分野のイノベーションに携わってきました。SRIが多大な貢献をしてきた分野の一つが「ロボット手術」です。SRI Venturesのスピンオフ企業であるIntuitive Surgical(インテュイティブ・サージカル)は、1995年にSRIのロボット手術技術をライセンス化し、DaVinci® Surgical Systemの商業化に乗り出しました。DaVinci®は、腹腔鏡手術用として世界で初めて米国食品医薬品局(FDA: US Food and Drug Administration)の承認を受けたロボット支援手術システムです。
ダビンチの開発者によって、次のロボット手術のアシスタントのTaurusが誕生しました。軽量かつその構造・構成をいかようにも変えられるTaurusは、様々な環境の現場や狭い場所での使用を想定して設計されました。
Centibots — 協働ロボット
自然界では、多くの頭脳を使って問題を解決すると、より効果的であることが多々あります。これは人間だけでなく、アリやハチなどの昆虫にも見られます。2002年に開発された「Centibots」は、個々のロボットのパーツを合わせたものよりも、一つの集合体としてより高い機能を発揮するよう設計された「群れを成すロボット」です。Centibotsは互いにコミュニケーションをとりながら意思決定を行います。Centibotsの「ロボットの群れ」は各機能に特化した分割層にて構成されており、困難かつ危険な状況下では人間がほとんど介入することなく、Centibots同士で協力して作業することができるのです。
サイズミック(Seismic:震撼):(ウォーリアー・ウェブ)
SRIの専門家が開発したロボットは、今や人間の体を強化・補強することができるようになりました。SRIは2011年に米国国防高等研究計画局(DARPA)の「ウォーリアー・ウェブ(Warrior Web)プログラム」と共同で、兵士の筋肉を強化して重い物を運ぶときの衝撃を和らげるロボット・エクソスーツの開発に着手しました。また、SRIのスピンアウト企業であるSeismic(サイズミック)は、人を強化する衣類の様々な用途を開発するために設立されました。
MOTOBOT
SRIが開発したロボットの中で最もクールなのは、ロボットがヤマハのバイク「YZF-R1M」にまたがってバイクの安全性をテストした「MOTOBOT」でしょう。2016年、MOTOBOTはバイクに乗って自律走行ができる世界初のヒト型ロボットとなりました。
アバカスドライブ(Abacus Drive)
SRIは、ロボットのシェーキーがまだ“不安定な”初期段階から一貫してロボットの進化に貢献してきました。2016年にリリースしたSRIのアバカスドライブ(Abacus Drive)は、多くのロボットの「不安定な動き」を解消したのです。アバカスドライブは固定比の回転伝達ギアシステムで、ロボット工学の分野ではロボットの動きをスムーズにするよう設計されています。
今も、そして今後も、ロボットのサポートは増え続ける
SRIによるロボティクス分野の土台作りは、驚くような新しい開発に結び付いています。
自律走行車への道を切り開いたシェーキー (shaky)
シェーキーは、SRIとロボット工学の世界に長く続くレガシーを残しました。1960年代に作られたシェーキーは、初の自律型ロボットの1つとして、ロボット工学に革命をもたらしました。中でもシェーキーの心臓部に搭載されたAIエコシステムは、その後に続く未来を垣間見せてくれました。複雑な環境下でのナビゲーションや障害物の回避など、今日の自律走行システムにかかわる要素の多くは、元をたどればシェーキーのDNAに繋がっています。また、シェーキーには現代のロボットにとって重要な要素となっている、当時は開発されたばかりの「音声対話インターフェース」も含まれていました。
ロボットによる遠隔操作
自社の発明を商業的に展開する目的でスピンアウト企業を設立することは、SRIでは珍しくありません。ロボティクスの分野で最も成功したスピンアウト企業の一つがIntuitive Surgical, Inc.(インテュイティブサージカルインク)です。SRIが開発したロボット外科医は、離れた場所から正確かつ繊細なロボットの動きを制御することにより、人間のパフォーマンスを拡張する能力を生み出しました。Intuitive Surgical, Inc.は遠隔操作による手術ロボットという分野を牽引する存在であり、またロボットによる遠隔操作の応用として、自動車の遠隔操作にも取り組んでいます。この分野のパイオニアであるSRIのスピンオフ企業Scotty Labsは、先日DoorDashが買収しました。
柔らかくて快適なエクソマッスル(Exomuscle)
筋肉に何らかの問題を抱えている人にとっては、ソファーから立ち上がったり、立って料理をしたり、健康な人にとっては当たり前のようなことが多くの場面で困難になることがあります。ですが、このような困難なことができるように補助するのが、SRIの開発したエクソマッスル(exomuscles)です。SRIが開発したエクソマッスルは柔らかくて違和感がなく、パワーを補助して加齢に伴う筋肉の衰えを補う衣服のようなものです。このエクソマッスルは、高齢者や筋ジストロフィーなどの障害のある人にとって、希望の星となっています。
未来のロボット像について
SRIは常に未来に目を向けています。SRIはロボット工学を応用して人間を強化・補強することを目指しており、将来的には次のようなものを考えています。
AI支援型の遠隔操作
SRIではAIを使ってユーザーのニーズを予測し、人間のパフォーマンスを向上させることに取り組んでいます。これは、ロボットの遠隔操作(テレオペレーション)をより直感的に行えるようにするためです。
近年のAR技術の発展を利用した遠隔操作
SRIはAR/VR(拡張現実・仮想現実)の大幅な進化を利用して、遠隔操作の使用範囲を拡大しています。AR/VR対応ロボットの新しい用途としては、危険物の取り扱い、宇宙開発、海底ロボットなどがあげられます。
遠距離からの遠隔操作
SRIはまた、遠距離からの遠隔操作の管理や、遠隔操作時のタイムラグを軽減・改善するシステムの開発なども行っています。
群れを利用したロボットと人間のインタラクション
SRIはAIを使ってロボットを自律的に操作するという、ロボット工学の大躍進に取り組んでいます。しかし、AIを支援するために人間の介入が必要となる特異なケースや、見たこともない習性も多くあります。この一例がCentibotsのような「群れをなすロボット」です。ロボットの群れは与えられた環境の中で、頻繁に動いて相互交流しなければなりません。厳密なAIによる制御は継続的な再訓練や改良が必要であることから、人間による高度な遠隔操作で群れを制御する方がより効果的な制御方法として検討されています。
SRIは「ロボットが活躍する未来」というビジョンを実現しようとしています。SRIは、ロボットのシェーキーから始まったロボット開発の長い歴史を基に、これからもロボットの世界を進展させ続けます。
参考資料:
Shakey the Robot :(日本語ブログ:ロボットのシェーキー(Shakey the Robot)〜ルンバなどに繋がる技術の道筋を切り開いたロボットのシェーキー〜)
Centibots — coordinated robots :(日本語ブログ:Centibots ハイブマインド(集合精神)を持つロボット)
MotoBot (1st autonomous motorcycle) :(日本語ブログ:MOTOBOT 世界初の自律走行が可能なヒト型の自動二輪ライディングロボット)
Da Vinci/surgical robots + Taurus robotic system (日本語ブログ:ロボット外科医(テレプレゼンスによる遠隔操作システムとその方法)
Abacus Drive :(日本語ブログ:アバカスドライブ 1960年代のハーモニックドライブ登場以降、初となる唯一の固定速比回転伝達機構(減速機))
Seismic (Warrior Webb) :(日本語ブログ:SRIが開発したスーパーフレックス・スーツ(DARPA Warrior Web Program)
Intuitive Surgical: https://www.intuitive.com/
Seismic Powered Clothing: https://www.myseismic.com/