SRIとLisa Health、更年期障害の改善と健康的なエイジングを促すという課題に取り組む
機械学習(ML)とセンサー技術の劇的な進歩により、フィットネスやダイエット、糖尿病、不妊、妊娠などの管理がより良くなるように支援するデジタルソリューション(アプリやウェアラブル端末など)が急増しています。
しかし、人生の中で最も重要かつ複雑に「健康」に関わる現象の1つである「更年期」を迎えている女性は世界中に約19億人も存在しますが、彼女たちを対象とした先端技術による包括的なソリューションは今のところ存在していません。更年期の女性の多くは、日々の健康状態だけでなく、健康寿命にも影響を及ぼすような症状である「更年期障害」を長期にわたって経験しています。
SRIとSRIのスピンアウトであるベンチャー企業「Lisa Health」は、この状況を変えようとしています。デジタルヘルス企業であるLisa Healthの創業者兼CEOのAnn Garnierは「更年期には、ディープテックによるアプローチが必要だと強く感じています」と述べています。「私たちは、機械学習とセンサー技術の進歩を組み合わせて、女性一人一人がそれぞれ体験している症状などを真に解読して対応し、個々人に合わせた治療を提案して健康を回復し、女性が健康的に年を重ねられるようにすることを決意しました。」
両組織は、女性が更年期障害の症状をより良く管理して健康的な生涯を過ごせるように、世界初のデータ主導型の包括的デジタルヘルステクノロジープラットフォームを共同で開発しています。
更年期の難問
「更年期」は、すべての女性が体験する自然な現象です。閉経前後、つまり閉経しつつある時期と閉経後という時期は、ライフステージの中でも非常に複雑かつ長いものであり、女性一人一人それぞれの健康状態や症状は異なります。更年期障害には34の症状があると考えられていますが、その組み合わせは無数にあり、時間の経過とともに変化します。研究によると、85%の女性が4~7年、中には20年続く症状を経験すると言われています。
この複雑なライフステージに対して、十分な準備ができている女性はごく僅かです。また、いったん更年期の期間に入ると、容易にアクセスができて信頼性が高く、正確なサポートが得られる手立てはそれほどありません。「更年期ケアのトレーニングを受けた医師は2割にも満たず、また、このギャップを埋められる先進的なテクノロジーソリューションもほとんど存在しません」とGarnierは述べています。
当たり前のことかもしれませんが、更年期障害の自己管理を自分一人で行っていると感じている女性は多いのではないでしょうか。多くの人は、効果があることを示すエビデンスがほとんどない製品やサービスを色々と利用したり、更年期の間は何年も試行錯誤を繰り返します。中には有害なものもあるかもしれません。結局のところ、多くの女性は、日常生活に悪影響を及ぼしたり、費用が嵩んだり、最悪の場合には深刻な健康状態の悪化につながる可能性があるなど、「最適」とはいえない状況を受け入れています。
「更年期は、女性の健康リスクが急激に上昇し始める非常に重要な時期です」とGarnier氏は述べています。「更年期障害の症状を管理することで、循環器系疾患、糖尿病、骨粗しょう症など、深刻で費用のかかる疾患の予防にもつながる機会を女性に提供することができます。」
データで解決をする
「更年期障害の長年の課題の1つは、この背景にある生物学的な行動様式が解明されていないことです」とGarnierは述べています。「更年期の症状がどのように、そしてなぜ起こるのかについての情報がなければ、女性や医療従事者はダーツの的に向かってダーツを投げているだけに過ぎません。しかもほとんどの場合、的を外してしまいます。」
SRIのバイオサイエンス部門には、更年期の専門家として世界的に有名な科学者のチームがいます。SRIインターナショナルのCenter for Health SciencesのディレクターであるFiona Baker博士とHuman Sleep Research ProgramのTranslational Sleep Technology UnitリーダーであるMassimiliano de Zambotti博士は、更年期の症状の中でも特に多く見られ深刻であるホットフラッシュ(ほてり)と、睡眠不足の相互関係に着目しています。彼らの研究の多くは、ホットフラッシュや不眠に関連する生物心理学的事象を探り、解決につながる情報を女性たちや医師に提供しています。
「更年期に移行するにつれ、女性は睡眠に関する問題、特に夜中に頻繁に目が覚め、再び眠りにつけなくなるといったトラブルを抱えやすくなります。睡眠が妨げられる夜が続くと、生活の質(Quality of Life)や日中の生活や気分に悪影響を及ぼします」とBakerは述べています。
SRIのチームは10年近くにわたる基礎研究や橋渡し研究(Translational research)を通じて、夜間のホットフラッシュと睡眠障害との関連性を確立するなど、ホットフラッシュに伴う生理的な変化の特徴を示す豊富なデータを蓄積してきました。この成果をもとに、女性や医師が更年期症状をよりよく理解して、管理するのに役立つ新しい実用的なツールを構想・開発しました。これらのツールには、睡眠の乱れを数値化して特徴付ける指標や、ホットフラッシュを検知して分類・予測する高度なAIベースの分析・マルチセンサー技術などが含まれています。
Lisa Healthの共同設立者であるde Zambottiは、「女性が経験している更年期の症状を追跡・定量化することができれば、長期にわたる症状の予防や軽減に役立ち、また特定の治療の影響を定量化することもできます」と述べています。
世界初の更年期障害対策のテクノロジー
Lisa Healthは、2019年に更年期のための世界初となるデジタルヘルスプラットフォームを発表しました。その直後、SRIは同社を名誉あるベンチャーインキュベーションプログラムの1社に選定しました。
SRI Venturesのバイスプレジデント兼マネージングディレクターであるTodd Stavishは、「Lisa HealthとSRIは、女性の更年期障害の管理を支援するために先進的な技術を活用するというビジョンを共有したのです」と述べています。
Lisa HealthとSRIのチームは、ディープテクノロジーの力とSRIの研究者とLisa Healthが収集したデータを活用して、更年期の複雑さを解読することによって女性がこの困難なライフステージをコントロールできるようにする包括的なデジタルヘルスソリューションを開発することを約束しました。
最近行われたAARPの調査では、93%の女性が「更年期の症状を管理できて、かつ各個人に合わせた非侵襲的なテクノロジー」を好ましく思うと回答しています。
Lisa Healthが開発中のデジタル健康ソリューションは、ウェアラブルセンサーの技術や携帯電話から、またユーザーの自己申告によって得るデータを高度な解析技術で統合し、更年期の症状や健康全般に関する日々の知見をユーザーに分かりやすく提供するものです。これらの情報を女性の個人的な健康に関する目標と組み合せて、全般的な対策から行動的なアプローチ、治療の処方まで、エビデンスに基づいて高度にパーソナライズした治療案が提供されます。Lisa Healthのテクノロジーは、コーチングや教育、コミュニティも提供する予定です。
「私たちは、女性の更年期に起こる症状をすべて把握し、よりスムーズに更年期をむかえれるように支援することを目指しています。」とde Zambottiは述べています。「基本的には、更年期に移行しているときに何が起こっているのかを正確に突き止め、適切な治療を受けるために必要なデータと知見を提供します。」
また、Lisa Healthのテクノロジーから得られる情報を女性が医師に共有することで、治療法の選択肢についてより有意義な対話ができるようになります。
「医師はデータを非常に重要視します」とGarnierは述べています。「私たちの技術によって、医師は患者が日々経験している症状やその重さ、頻度、また様々な治療に対する反応などを確認することができます。女性も医師も、より包括的な情報を得ることができ、治療についての話し合いや意思決定の共有が可能になります。」
Lisa HealthとSRIのチームは、Lisa Healthのウェブサイトで現在提供されている導入や教育をモバイル環境に移行しており、ウェブサイトとモバイルテクノロジーの統合も進めています。また、このチームはMayo Clinicと共同で、この新しいプラットフォームの価値を実証するための試験運用も行っています。
さらに、Lisa Healthは2021年に全米科学財団(National Science Foundation:NSF)から、この新しい更年期障害対策テクノロジーの研究開発を支援するシードファンド助成金(サブコントラクトはSRI)を獲得しました。「今回の助成金獲得は、更年期障害に関するディープテクノロジーの重要性と、Lisa Healthの科学的なテクノロジーチームとSRIインターナショナルとの継続的なパートナーシップを示すものです」と、de Zambottiは述べています。
「私たちは、女性が更年期の様々な症状を管理する過程において、健康的に年を重ねて深刻な健康問題の予防を支援するという、極めてユニークな立場にいると思います」とGarnierは述べています。「この、何百万人もの女性の病気や老化の軌道を変える可能性は、私が最も嬉しく思うことの1つです。」