膵臓がんを標的とする分子を、SRIのFOX Three分子誘導システムを活用して開発
膵臓がんは米国におけるがん死因の第4位で、患者の半数以上に転移があると診断され、その場合5年生存率は3%強にすぎません。しかし、腫瘍が膵臓にとどまっている限局性疾患と診断された患者の5年生存率は44%と劇的に良いものとなっています。この予後の顕著な違いを浮き彫りにするのは、より良い治療法と早期発見できる方法の必要性です。
双方に対して希望を見出すべく、SRIのバイオサイエンス部門に所属する研究者たちは膵臓がんを含む様々な固形癌に見られるNeu5Gc-Sialyl Lewis Aという新しい糖鎖バイオマーカーを同定しました。この研究者たちは、SRIが独自に開発したFOX ThreeTMプラットフォームを用いて新しい分子誘導システム(MGS)(がん細胞上でこのバイオマーカーと結合するペプチド性リガンド)を開発することでNeu5Gc-Sialyl Lewis Aを膵がんバイオマーカーとして活用できるようになり、また、MGSをがんの分子標的薬として使用できるようにもなりました。
このがんを標的とする分子は、診断と治療の双方に使用できます。MGSは腫瘍を早期発見できるよう、医療用の画像診断で識別できる造影剤にタグ付けすることもできる上、腫瘍細胞に直接作用してがんを殺す薬や免疫療法薬に結合させることもできます。この標的システムは、膵臓がんを早期に発見できる可能性を高めると同時に、新たな治療の道筋を開く可能性を秘めています。
早期に警鐘をならす
SRIのバイオサイエンス部門に所属する博士研究員のShelby Knocheは、「我々の知る限り、このような方法でNeu5GC-Sialyl Lewis Aを同定できたグループは他にありません。この分子誘導システムが非常に有効なのは、健康な人はNeu5Gc-Sialyl Lewis Aをほとんど産生しないからです。この特徴的なバイオマーカーは健康な組織ではほとんど見られませんが、膵臓がんの細胞では代謝に変化があるため多く見られるのです。よって、MGSは副作用がほとんどなく、膵臓がん組織に特定して薬剤を送達するために使用することができます。」と述べています。
Knocheたちは、Neu5Gc-Sialyl Lewis Aが転移性膵臓がんと局所膵臓がんの両方ではっきりと発現していることを明らかにしました。これは前がん細胞が本格的ながんになる前に特定できる可能性があり、早期発見システムの中でも最も早期に検知できるものであるとKnocheは述べています。「Neu5Gc-Sialyl Lewis Aを使えば、膵臓がんの前駆病変をも検出できるでしょう。生存の見込みのある患者さんの腫瘍をより早く発見できれば、生存率を大きく改善させることができるのです。」
臨床面でのポテンシャル
SRIは現在、MGSをTALLTM テクノロジーと呼ばれる免疫療法で、膵臓がんの治療に活用しています。TALLはNeu5Gc-Sialyl Lewis Aの標的化テクノロジーをリポソーム製剤と組み合わせたもので、膵臓がん細胞を高い特定性で探求し、体内の免疫機能をオンにしてがん細胞を破壊する治療法です。
「TALLは現在、非臨床試験の段階にあります。臨床試験を開始するにあたり、重要な前段階となる治験許可申請(IND申請)に向けて進めているところです。」とKnocheは述べています。
Knocheと同僚たちは、全米膵がん啓発月間の最初の週となる2023年11月1日から5日まで、サンディエゴで開催されるがん免疫療法学会の年次総会でこの研究発表を行う予定です。