Net@50からNet@60への進化:インターネット革命の真実を探る


インターネットの将来について


前回は「Net@50(インターネット誕生50周年):ネットの起源に思いを寄せて」と題するブログでインターネット誕生当時の状況を詳しくお伝えしましたが、世界初のインターネット通信は1969年10月29日、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)とスタンフォード研究所(現在のSRIインターナショナル(SRI))の間で行われました。

初の通信開始後すぐにシステムがクラッシュしてしまったものの、この通信がデジタル接続革命の出発点となりました。初めて通信が成功した後もSRIは引き続きネットワークの構築とその補完技術の開発に携わりました。SRIの拡張技術研究センター(Augmentation Research Center)のクリエイターだったダグラス・エンゲルバート(Douglas Engelbart)率いるチームは、ビットマップ形式のスクリーン、マウス、ハイパーテキスト、コラボレーションツール、グラフィックを使ったユーザーインターフェースの前身となるもの、といった革新的なデバイスを開発しました。

ここで興味深い話をご紹介しましょう。ダグラス・エンゲルバートは自身の特許申請書において、マウスカーソルのことを「ディスプレイシステム用XYポジションインジケータ」と称しています。それは、”カーソル”から”尻尾”が生えているように見えることから「マウス」という愛称が付けられました。元々はスクリーン上のカーソルは「バグ(虫)」と呼ばれていましたが、その名前は普及しませんでした。

将来のイノベーションに向けての土台作り

ウェブが誕生した当初、SRIはあるテキストを「HOSTS.txt」と名付けて保持していました。それは、インターネットの先駆けであるアーパネット(ARPANET)上でコンピューターのIPアドレスにホスト名を割り当てるための文書でした。SRIのネットワーク・インフォメーション・システム・センター(NIC)の元責任者エリザベス・J・フェイラー(Elizabeth “Jake” Feinler)は、アーパネットのディレクトリの最初のバージョンの開発・保守を行った人物です。

この文書は人の手によって管理されていたため、コンピューターの所有者が自分のシステムをネットワークに追加するには、SRIのNICに対し業務時間内に電話で連絡する必要がありました。

また、インターネットの「ドメイン名」という概念を生み出したのも、エリザベス・J・フェイラーのチームでした。ドメインという概念の背後にあった元の発想は、コンピューターの物理的な所在地に基づいてドメインを割り当てようとするもので、例えば教育施設には”edu”と割り当てるというものでした。

社会を再構築するグローバル規模の革命

1969年に世界初のインターネット通信が行われて以来、インターネットというコミュニケーションプラットフォームは、米国が支配するものから世界の人口77億人の半分超が利用するものへと進化してきました。今日では世界中に推定44億人のインターネットユーザーが存在しています。

SRIの情報科学&計算機科学(Information & Computing Sciences)部門を率いるウィリアム・マーク(William Mark)は、インターネットの現状について「今日のインターネットは、人々の日常の活動(買い物、検索など)を円滑に進めるという役割を果たしています。それはインターネットが固定されたコンピューターのためのものから、幅広いデバイスで利用するものになったことを意味します。世界的に見ても状況は同じです」と答えています。

まさしく現在の変化はその通りになっています。2025年までに世界のインターネットユーザーの約4分の3、つまり37億人もの人々が、スマートフォンだけを使ってウェブに接続するようになるでしょう。実際、モバイルデバイスを使用する機会が増えることで私たちのインターネットとの付き合い方は本質的な変化を遂げています。この変化の実例の一つが、バーチャルアシスタントの分野です。
Siri(SRIの研究による製品)は人間に似た性質をもつテクノロジーとして、人とデジタルデバイスのやりとりに変化をもたらしています。SRIのプレジデントであるマニッシュ・コタリ(Manish Kothari)はこのアイデアを自身の娘との会話を例に説明しています。

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インターネットには多くの利点がありますが、なくてはならないネットワークであるが故にネガティブな側面を抱えています。その一例がサイバー犯罪です。2009年に報告されたコンフィッカー(Conficker)ウィルスは、ウクライナのサイバー犯集団によるものと考えられていますが、FBIは”我が国の主要都市の1つで大量破壊兵器や爆弾”が使用された場合と同規模の大きな破壊能力をも持っているとして警戒心をあらわにしました。
SRIが行った国民調査では、1千万以上のIPアドレスにコンフィッカーが感染したことが分かっています。ただしこの数は、SRIが調査対象としたIPアドレス(調査員によるとウェブ全体のIPアドレス数よりかなり少ない)における値にすぎません。
コンフィッカーを最初に見つけたのはSRIの科学者フィル・ポラス(Phil Porras)ヴィノッド・イェグネスワラン(Vinod Yegneswaran)で、そのワームのリバースエンジニアリングに成功した最初の人物も同じくSRIのハッサン・サイディ(Hassan Saidi)でした。またポラス、イェグネスワラン、サイディの3人は、コンフィッカーを消滅させるために特別に作られたコンフィッカー・ワーキンググループ(非公式にはコンフィッカー・コバル(Conficker Cabal)と呼ばれていた)に所属していました。

ウィリアム・マーク(William Mark)は現実世界に例えて、次のように述べています。

「街ですれ違う人々の大半は良い人ですが、とはいえ、全ての人がそうではないので悪いことが起こるのです。インターネット上でも同様です。インターネットの新しい利用法について考える時の創造力は、悪人が悪事を思いつく時の創造力と同じ類のものです。人生とよく似ていて、悪戦苦闘の繰り返しです」

インターネットに関するもう1つのマイナスの側面は、プライバシーを失うことです。この問題は、多くの人たちの心にインターネット上に存在するウェブサイトの倫理的・社会的価値に対する疑念をもたらします。ただし、プライバシーを保護しながらインターネット資源にアクセスする方法は存在します。ウィリアム・マークは、SRIが日本を拠点とする法人顧客に対して提供した研究開発プロジェクトについて、次のように言及しています。

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マルウェアとプライバシーは重大な懸念事項ですが、専門家たちにとって更に大きな課題は、今日のインターネットの利用増加に対処できるようウェブの構造を再検討することです。そのためには、インターネットがこの先どのような進化を遂げるのかを考察する必要があります。
このテーマに関する議論の中で、マニッシュ・コタリは、インターネットユーザーが自ら選んだ企業や組織に対して選択的に個人情報を共有することを可能にする準同形暗号化などのテクノロジーの開発について触れています。

未来を見据えて

インターネットのプラスの面に話を戻すと、モノのインターネット(IoT)はメディアで広く取り上げられていますが、インターネットは今後10年間の進歩で思いもよらないものと密接に結びつくと、SRIのウィリアム・マークは考えています。例えば都市インフラや建築物の構成要素が、ネットワークの欠かせない要素となるでしょう。

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インターネットは人と人とのコミュニケーションを促すよう設計されたものですが、テクノロジーの進歩により、マニッシュ・コタリが言うように、インターネットのタスクの80~90%を人的交流なしに行うことが可能な状況が生まれています。今の私たちにとって、インターネット上のやり取り(オンラインで何かを注文すると当日中に配達される、など)や、現実の生活(洗濯機の機能など)におけるこのレベルの自動化は珍しいことではありません。私たちは、より高度な自動化のコントロール方法と自分たちをどのように適応させていくかということを学ぶ必要があるでしょう。

それでは、私たちはどこに向かっているのでしょうか?マニッシュ・コタリは、企業が宇宙関連のテクノロジーに注目していることを指摘しています。例えばキューブサットCubeSat)は、科学者たちが気象パターンや気候変動の理解を深めることを可能にしています。このテクノロジーにより、インターネットを通じて地球上と上空の離れた場所で共同作業を行うことも可能になります。

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キューブサットのテクノロジーは2010年から商業利用されていますが、そのきっかけとなったのはSRIによる電波オーロラ探索器(RAX)という人工衛星の打ち上げでした。

より繋がる世界へ

この50年間にわたり、インターネットは社会に多大な影響を及ぼしてきました。元々は研究者同士のコミュニケーション手段としてスタートしたものですが、ネットワークの1つとして人々の生活のあらゆる場面に影響を与えるまでに進化しました。まさにインターネットがイノベーションのスピードを年々加速させてきたと言えます。

これまでの議論を振り返ると、インターネット誕生から50年間で様々な出来事が起こったものの、インターネットが依然として初期の段階にあるということが明らかになってきました。今後も私たちの社会は、世界のさまざまな側面にインターネットがますます組み込まれる方向へと進み続けていくことでしょう。

筆者:Reenita Malhotra Hora/ SRI International (Director of Marketing & Communications)


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