建築設計プロセスにAIを導入するSRIの研究者たち

1つの設計について、複数の建築スケッチを作成できる

AIを搭載した設計者用の新しいソフトウェアは、1枚のスケッチから建物設計に関する複数の選択肢をレンダリング可能


建物を設計するプロセスは、多くの場合、シンプルなラフスケッチから始まります。設計者は数本の線をさっと引いてシルエットを描き、窓やドア、バルコニーの形をそれとなく描くことができます。しかし現在、このスケッチを詳細なファサードデザインや立体的な(3次元の)レンダリングに仕上げるのは、時間のかかる作業となっています。また、最終設計の決定前に、クライアントから複数のレンダリングを見たいと求められることがよくあります。

SRIの研究者たちは、1枚のスケッチから複数の詳細なレンダリングを迅速に作成できる、人工知能を活用した設計ツールキットの開発に取り組んでいます。AICorb(アイコルブ)と呼ばれるこのツールキットは、設計者が様々なファサードの選択肢を作成する支援、さらに選択したスタイルを3次元モデルに重ねる支援をすることができます。

SRIの人工知能センターのシニアコンピューターサイエンティストであるEric Yehは次のように述べています。「現在のところ、設計者は最初の設計案を作成してフィードバックをもらい、また図面に戻るということを繰り返しています。私たちは、設計者がアイデアを出して提案書を作成するスピードを上げたいと思っています」

Yehと同僚たちは、日本で最大級の建設会社であり、主にオフィスビルや商業ビルを手がける株式会社大林組の設計者や研究者たちと協力してAICorbを開発し、設計のプロセスにこのテクノロジーを組み込んできました。このソフトウェアは、建築設計プラットフォームであるHypar社と統合して、設計者が簡単に使用できるようにすることを目指しています。

「AIは人間の創造性に取って代わることはできませんが、プロセスに関わる大変な作業の一部を肩代わりすることはできるのです」とYehは述べています。

現在のところ、AICorbには主に2つの機能があります。1つはラフスケッチから建物の外観を何パターンも生成する機能、もう1つは設計者が選んだ特定のバージョンやスタイルを3Dモデルに変換する機能です。

「直線や詳細があまりないコンセプトスケッチを、実際の建物に似通ったものに変換するのは、本当に難しいことでした。ソフトウェアが設計者の意図を認識できるようにする必要があるからです」とYehは述べています。

研究者たちは大林組が提供した膨大な建築画像のカタログを使って、生成モデル(見たものの中から基本的なパターンを見つけ出し、その知識を使って新しい類似データを作成する機械学習モデルの一種)を訓練しました。そして、ある図面を提示すると、このモデルはその建物をどのような外観にできる可能性があるのか、さまざまなバージョンを作成することができるようになりました。設計者はそれらの案を利用してもよいし、入力を調整して新たな案を作ることもできます。気に入ったスタイルができたら、Hypar社のレンダリングプラットフォームを使い3次元で視覚化することができます。

「創造的な視点をいろいろ与えてくれるジェネレーティブ要素と、画像内の構造に関係する要素を認識して3Dモデルに反映させるモデラー要素があります。最終的には、レンダリングだけでなく、材料や費用の見積もりなどさまざまな情報を盛り込んだ完全な3Dの構造もできるようになります」とYehは述べています。

研究者たちは、AICorbのモデリング能力を拡張するだけでなく、このソフトウェアを使って建物内部を設計することにも興味を抱いています。現在のところ、AICorbは建物外部のファサードに特化したソフトウェアですが、内部のレイアウトの生成にも応用できる可能性があり、特に病院のような特殊なレイアウトが必要とされる建物は選択肢を広げるのに役立つのではないかと考えています。

研究者たちは建築系の学校でAICorbソフトウェアのトライアルを実施し、学生たちが設計についての考え方を広げるのに役立っており、またAICorbを大林組の内部設計のプロセスに組み込むことを期待しています。研究者たちは、このソフトウェアをHypar社プラットフォームのプラグインとして公開することも検討しています。

「私たちはパートナーと協力して、設計の初期段階で設計者に役立つテクノロジーを開発しようとしています。AIは人間の創造性に取って代わることはできませんが、プロセスに関わる大変な作業の一部を肩代わりすることはできるのです」とYehは述べています。


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