SRIには1960年代から宇宙関連のプロジェクトに取り組んできた長い歴史がある
木星の衛星の1つエウロパの表面を覆う氷の下には、生命に必要な条件を満たす巨大な塩水の海が広がっているかもしれません。今年の秋に打ち上げが予定されているNASAのエウロパ・クリッパー・ミッション(Europa Clipper mission)は、生命居住に必要な条件が存在するかどうか、存在するのであればその場所を特定するため、この遥か彼方にある衛星を目指します。ミッションの探査機はエウロパに50回ほど接近(フライバイ)し、SRIが設計したイメージャーを使用してこの衛星の表面ほぼ全体のマッピングを実施します。
このエウロパ・イメージング・システム(EIS:Europa Imaging Systems)には2台のカメラを搭載しており、どちらもSRIのアドバンスド・イメージング・センター(Center for Advanced Imaging)で設計された8メガピクセルのセンサーを使用しています。広角カメラは、探査機がエウロパをフライバイしている間に、地上航跡に沿って地形の立体カラー画像を撮影します。
狭角カメラは、メートル単位で特定のエリアをより詳細に映し出すだけでなく、球体のほぼ全容のマッピングもでき、噴出している可能性のあるプルーム(水蒸気の間欠泉)の探査も行います。SRIの相補型金属酸化膜半導体(CMOS)イメージャーは、カメラが集めた光を立体カラー画像に変換して、エウロパの表面にある谷や隆起を従来よりもはるかに詳細に表示してくれます。
SRIの宇宙イメージングプログラムのディレクターでEISプロジェクトのプログラムマネージャーを務めるDavid Kellerは次のように述べています。「EISのようなカメラを軌道に投入するには、エンジニアや科学者、技術者、そして管理者が小さな村のように機能することが必要です。SRIのチームは、この素晴らしい発見のミッションを共に遂行する機会を与えてくれたジョンズ・ホプキンス応用物理学研究所(APL)とNASAのジェット推進研究所(JPL)の関係者に感謝します」
EISは、エウロパの表面の約90%を100メートルより小さいピクセル単位でマッピングします。なお、これまでにガリレオ探査機がエウロパの1%に満たない表面を同等の画質で撮影した画像があります。今回の目標は、エウロパの表面全体の特徴を調査することであり、エウロパに特有の地質から氷の下で何が起きているかについて示唆を得ることです。
例えば、表面の構造によっては、新しい地質活動の兆候や、地下の海からのプルームが宇宙空間に物質を放出している場所が見つかるかもしれません。また、カラーの画像はエウロパの表面の組成について知見を得る手掛かりにもなるでしょう。
SRIの研究者たちは、イメージャーの設計のほかにも、イメージャーを格納する躯体の設計と組み立てを手掛けており、このイメージャーが太陽系を旅する準備が整っていることを確認するため、広範囲に及ぶ一連の試験を実施しました。
CMOSセンサーは放射線による影響を受けないよう設計されているほか、探査機のミッションで使用される電子機器はすべてセンチメートル単位の厚みのアルミニウムの保護容器に格納することにより、木星の激しい放射線からセンサーも保護されています。しかしながら、こうしたこと以外にも対応できるようにしなければならない課題のストレスはまだまだ多くあるのです。
SRIは、イメージャーが宇宙の真空状態における極端な暑さや寒さ、そして放射線に耐えられること、そしてミッションの実施期間全体にわたって高品質の画像を生成できることを実証しました。
SRIには宇宙関連のプロジェクトに取り組んできた長い歴史があります。下記にいくつかの例をご紹介します。
- SRIは、2018年に打ち上げられたNASAのParker Solar Probe(パーカー太陽探査機)にCMOSイメージャーを提供しています。この探査機は現在、これまでのどの探査機よりも太陽に近い軌道を周回しています。
- SRIはIARPA(Intelligence Advanced Research Projects Activity、インテリジェンス高等研究計画活動)との契約のもと、人工衛星や他の宇宙船にダメージを与える可能性がある小さなスペースデブリの検出と追跡に取り組んでいます。
- LEO LabsやNuview、XONA、ZephrなどSRIの宇宙関連スタートアップ企業は、軌道上の物体のデブリや衝突からの保護、LiDARで地球の表面をマッピングする衛星の製作、衛星をベースとした新しいナビゲーションシステムの開発、GPSの精度の向上などの課題に取り組んでいます。
- SRIのDish missions は、旧ソ連の技術に関する知見を得るのに役立ったほか、NASAのパイオニア計画ミッションに貢献しました。現在は、SRIと米海軍が協力して宇宙分野や航空分野におけるRF探査を解明するため、ディッシュアンテナを使って実験を行っています。
2024年10月15日に打ち上げが成功したエウロパ・クリッパー(Europa Clipper)は、約6年かけて木星の周回軌道に到達し、その後エウロパに接近するフライバイを50回行います。EISが収集する画像は、この探査機が同時に収集する熱画像や赤外線画像、紫外線画像、磁場の測定やレーダーサウンディング、化学分析などによる他のデータを補完するものとなります。
エウロパ・クリッパーの探査から得られるこのようなデータは、太陽系の外惑星における海洋環境の居住性について知見を提供してくれるとともに、地球外生命体の存在を探るさらなるミッションにも役立つ可能性があります。