超高感度センシングを可能にする画期的な量子技術を開発

SRIにて最先端のポータブル原子センサーとシステムを開発

ナビゲーションや医療用の画像などの分野で、個々の原子に誘発される変化を検出する新しい高感度センサーが活躍する可能性


センサーは、現代生活のいたるところにあるテクノロジーです。車の速度や方向を測定する装置から、スマートフォンの画面の向きを回転させる加速度センサーに至るまで、私たちの安全性や利便性は、外部環境からの物理的な力を検知し、これに反応する電子センサーに大きく依存しています。

現存するセンサーは今のままでも優れていますが、まだ開拓されていない量子力学の法則を活用した新しい種類のセンシング技術には可能性が大いに広がっています。そして現在使用されているセンサーの数千倍もの感度を発揮する可能性があるのが「量子センサー」です。

量子センシングのテクノロジーは、日常生活のあらゆる体験を向上させることができ、ナビゲーションや位置情報取得(ジオロケーション)、医療分野の画像、またその他のアプリケーションに新たな機能を付加する体制も整いつつあります。SRIはこの量子ベースのセンシングがもたらす未来の一端を担っています。

SRIの応用物理ラボのラボディレクターであるJesse Wodinは次のように述べています。「SRIは現在、量子センシングに特化しています。私たちや政府関係者、そして産業界で協力している人々は量子センシングがもたらす大きな可能性を認識しており、この分野を今後も発展させていくことを嬉しく思っています。」

動きの変化を測定するセンサー

従来の古典的なセンシングは、一般的に(多数の電子からできているダイオードや抵抗器などの)センサー内の大量の原子が電波や加速などの信号と作用することでその機能を発揮します。

しかし、量子センシングは個々の原子の規模で作動します。1900年代の初頭から研究されてきた量子力学の法則では、光子(光を構成する)や電子(電気の流れ)などの素粒子が原子とどのように相互作用するかが解明されています。

SRIの研究者たちは、このような相互作用を非常に精巧に把握できるようになったことで、重力や加速度、運動、光、電場、磁場などの力によって発生する原子のあらゆる動きのばらつきを測定するセンサーを開発しています。

「原子の規模まで小さくすると、何が起こっているのかを理解するには量子力学の法則をすべて活用しなければなりません。そしてこれらの法則は、原子に変化がもたらされたときに何が起こるかを教えてくれます。」とWodinは述べています。

量子センサーは、レーザーで操る単一の原子または原子の固まりを含む小さなガラスセルまたは金属チップのような物理的な形であることが多いです。センサーで感知するにはまず原子を安定した状態に保ち、その後にばらつきを測定しますが、そのために原子はまず真空状態の中に配置されます。レーザーは原子をより安定させるとともに、これを捕捉しますが、時には冷却もします。そして同時に、電磁場や加速度などへの曝露によって誘発される原子の変化を「読み取る」手段としても機能するのです。

スーツケースに収まるサイズの量子センサー

WodinとSRIの同僚たちは、これらのコンセプトとアーキテクチャを基にして、ラボで実証した技術をさらに現実の運用環境に展開させることを目標として、いくつかのプロジェクトに着手しています。
「私たちは、超高感度の磁場センサー、高周波センサー、そして量子ジャイロスコープを作っています。いずれも、物理学の原子力学を利用して検出していますが、これが信じられないような感度を発揮するのです。理論的には、従来型のいかなるものよりも桁違いに感度が高くなります。」とWodinは述べています。

この分野における最近の進歩は、Atomic Magnetometer for Biological Imaging in Earth’s Native Terrain (AMBIIENT)プログラムです。このテクノロジーはTwinleaf LLCとプリンストン大学と共同で開発されたものであり、心磁図検査で心臓の鼓動が測定できるようになりました。これは国防高等研究計画局(DARPA)FORWARDでライブデモが行われ、高額の費用をかけたシールドルームの外で微弱な磁気信号を観測することができました。

高性能の量子センサーは生体由来の磁場を検出する能力も授けてくれます。これは、例えばビルの瓦礫の中に閉じ込められた人を検知しようとするときに威力を発揮します。このような生体由来の磁場は、地球の自然な惑星の地場がもたらすバックグラウンドノイズから分離するのが非常に難しいのです。というのも、生体由来の磁場は惑星の磁場の何十億分の1の強さしかありません。

それゆえSRIは、現存する最高性能の磁場センサーと同等、またはそれを超えるような量子センサーの開発に取り組んでいます。ですが、地球の磁場を遮断する必要があるため、このような最高レベルのセンサーは、高額の費用をかけられる特殊用途の研究所でしか活用できず、災害の現場には容易に配備できません。

「私たちのアイデアは、どこにでも持ち運べる携帯電話サイズの量子センサーを作ることです。この種のデバイスはさらなる応用が可能で、例えば携帯型の脳スキャンシステムに利用できるかもしれません。」とWodinは述べています。

量子アンテナとジャイロスコープの精度をより高くする

SRIの量子アンテナプロジェクトは、メガヘルツからテラヘルツに至る幅広い周波数帯域の電波に対応する感度を1つのデバイスで精巧に検知することに主眼を置いています。現在、人工衛星から発出されるこのような帯域を捕捉するには、かさの大きい高価なアンテナを数多く並べることが必要で、プラットフォームの構築や立ち上げ、運用を制限する要因となっています。

軍事用途のほかにも、量子アンテナは地球観測衛星に搭載されており、気象予報や長期的な気候変動の把握に役立つとWodinは述べています。これらのアンテナは現在の数分の一のコストで幅広い帯域にわたって大気ガスの信号マッピングができることから、データの収集や分析の改善につながります。

SRIが手掛けている量子研究としては、他にも全地球測位システム(GPS)の信号に依存することなく自動車を長期間正確にナビゲートできるほど強力な新しい量子ジャイロスコープがあげられます。このようなセンサーの原子は、加速度に非常に敏感に反応するように考えられており、原子の量子状態を読み出して、設定した出発点と比較した正確な位置をナビゲーションシステムに伝えることができます。

「航空機からヘリコプター、ドローン、自動車やその他道路を走る乗り物、水中にある潜水艦まで、ナビゲートする必要があるものすべてにこのようなジャイロスコープを搭載したいと思うことでしょう。」とWodinは述べています。

SRIが軍や他の戦略的パートナーのために開発している画期的なセンサー技術は、インターネットやGPSが一般的に知れ渡って製品化される前に軍事分野から始まったと同じように、いずれは民間でも日常的に使用されるようになることでしょう。

「量子センサーが実用化され製品化へと進み、やがて市場に出回りあらゆるものに組み込まれると、最終的には従来型のセンサーにとって代わるものになるでしょう。私たちはセンサーをこの量子レベルという全く新しい段階に引き上げることを楽しみにしています。」とWodinは述べています。


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