「癌」のキラー細胞になる可能性を秘めた、遺伝子改変のヘルパーT細胞

T細胞とがん細胞のタンパク質

過小評価されがちなヘルパーT細胞のサブセットを用いて、強力な抗腫瘍作用のタンパク質を固形腫瘍に送達し、過剰投与に起因する毒性を克服する細胞ベースのプラットフォームを開発


今日の薬物送達プラットフォームは合成キャリアに依存しており、患者ごとの差異を考慮していません。その結果、健康な細胞や組織に害を与えることも多いのです。加えて、これらの医薬品の投与可能量は限定的であることが多く、半減期も短いため、複数回の投与が必要になることが大半です。

このような背景から、SRIの研究者たちが米国科学アカデミー発行の機関誌である米国科学アカデミー紀要(PNAS: Proceedings of the National Academy of Sciences)に発表した新しい論文では、これまで過小評価されていたCD4を発現するヘルパーT細胞を、標的に治療用のタンパク質を送達する細胞をベースにしたプラットフォームに転換させた方法が説明されています。

SRIの細胞ベース医療部門のシニアプログラムディレクターであり、この論文のシニアオーサーであるParijat Bhatnagarは、約10年にわたって学際的な科学者のチームを率いて、この精密医療にかかわる画期的な技術を開発しています。この研究は当初、米国国立衛生研究所(NIH)のDirector’s New Innovator Awardを獲得しており、その後は米国国立がん研究所の革新的な分子解析技術(Innovative Molecular Analysis Technologies:IMAT)プログラムから複数の助成金を受けています。

治療に直結する道筋を見つける

このチームの一員であり、先述の論文で筆頭著者をつとめたHarikrishnan Radhakrishnanは、「T細胞を用いた治療法の大半は、がんに関するバイオマーカーを過剰発現したがん細胞を破壊するCD8+キラーT細胞に焦点を当てています。この研究では当初、CD8+キラーT細胞を送達システムとして生成するように設計していたのですが、in situ(原位置)でのタンパク質産生を目指した経路は、CD4+ヘルパーT細胞の方がはるかに活性が高いことが判明したのです」と説明しています。

研究チームはまず、初代T細胞(プライマリーT細胞)の遺伝子改変と増殖に関するプロセスを開発しました。そして、このプロセスを応用して、キメラ抗原受容体(CAR)の細胞内ドメインがそれぞれ異なる3種類のCD4+T細胞とCD8+T細胞を作成しました。そして、腫瘍細胞に目的のタンパク質を送達する能力を追跡したところ、CD28の細胞内ドメインではなく、4-1BBの細胞内ドメインを含んだCARの遺伝子改変CD4+T細胞が、送達経路を進むにあたり最も効果的であり、CD8+T細胞よりも優れていることが判明したのです。実際、CD28と4-1BBの細胞内ドメインを2つとも含めると、CD4+T細胞とCD8+T細胞の双方で送達機能が低下していました。

「健康な組織を傷つけることなく、必要な時に必要な場所に、腫瘍の大きさに応じて正確に薬を送達できる細胞は、非常に魅力的なのです」―Parijat Bhatnagar

「CD4+T細胞は何十年も体内に留まり、刺激に応じて反応してくれることから、この送達プラットフォームは健康な組織に影響を与えることなく、病変の大きさに応じて、疾患部位に特異的な治療用のタンパク質を合成し、長期間持続させられるのではないかと期待しています」とBhatnagarは述べています。

卵巣がんのがん細胞を標的に

研究チームは、強力な抗腫瘍効果を有しているが、過剰に投与されると死に至ってしまう、治療用タンパク質のインターフェロンβ(IFNβ)を発現するプラットフォームを開発し、卵巣がんを特異的に標的にしようとしています。その結果は驚くべきもので、CD4+のT細胞を介して投与したIFNβががん細胞によって刺激されると、IFNβを直接大量に注射した場合と比べて、腫瘍を制御する効果が有意に高いことが証明されました。Bhatnagarは現在、このプラットフォームをより深く理解して、他のがんや、場合によっては他の疾患にも応用すべく、自身の研究の幅を広げています。

「健康な組織を傷つけることなく、必要な時に必要な場所に、腫瘍の大きさに応じて正確に薬を送達できる細胞は、非常に魅力的なのです。臨床の場で使用できるようになるのを楽しみにしています」とBhatnagarは述べています。

健康に関するSRIのイノベーションについての詳細は、こちらからご覧ください。

この研究は、国立生物医学画像・生物工学研究所(DP2EB024245:NIH Director’s New Innovator Award Program)、国立衛生研究所(NIH)の国立がん研究所(R21CA236640、R33CA247739、R21CA288900、R61CA281785)、および国防高等研究計画局(DARPA)(D19AP00024:DARPA Young Faculty Award)によって一部に支援を受けています。


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