28,000件に及ぶ無人航空機の設計データセット、AIを使用して特定のタスクに特化した機能を持つ新しいドローンの設計をする研究者たちを支援
何かを飛ばす方法はたくさんありますが、既存の航空機の設計の大半は実績のあるいくつかのモデルを少々変えたバリエーションに過ぎず、新規の設計開発には何年もかかります。SRIの研究者たちは、AIを用いることで新しいクリエイティブな設計をこれまでより早く生み出せるのではないか、また、特定のタスクに合わせた設計を可能にするのではないかと考えています。
SRIが率いるチームは、そのためにAIが生成した約2万8,000件の無人航空機(UAV: unmanned aerial vehicle)設計の公開データセットAircraftVerseを構築しました。機械学習の研究者たちは新しいドローンの設計を生成するアルゴリズムの開発やテストにこのデータセットを使い始めています。
SRIのNeuro-Symbolic Computing and Intelligence research groupを率いるテクニカルディレクターのSusmit Jhaは、「設計を段階的に変えていくのには限界があります。私たちは、特定のタスクに最も適した設計を考え出し、それを迅速に実践できるように設計をもっと自由自在にしたいのです」と述べています。
AircraftVerseのデータセットは、航空機のエンジニアにとっても有益であると研究者たちは述べています。設計者にとって、革新的なドローン設計で物理特性を理解できるような高品質のデータセットはほとんどないのですが、このデータにはエンジニアが設計を改善するのに役立つパターンが存在しているかもしれません。
実社会で使用できる新種のドローンを設計
テキストや画像から学習してこれらを生成することにAIアルゴリズムが効果的であることはすでに証明されていますが、UAVは現実の世界で機能しなければなりません。AircraftVerseの設計は、可能性のあるドローンについてAIが生成した単なる略図にとどまらず、実社会で稼働し、物理法則にも合致している必要があります。SRIのニューロシンボリックAIによって作成されたAircraftVerseの設計は、バッテリーやプロペラ、モーター、電子機器などの実在の部品を使用しており、性能指標となる最大飛行距離やホバリング時間などは忠実度の高い科学的なモデルを使って計算されています。
SRIのシニア・コンピューター・サイエンティストであるAdam Cobbは、「UAVの画像を生成しようとすると、AIモデルでは1ピクセルでエラーとなっても、実際に飛ぶ必要がないため、それほど問題にはなりません。ですが、AircraftVerseの設計は実際に飛ぶ可能性があるため、さらなる開発が必要とはいえ、基本的には初期プロトタイプです。私たちは、時間とコストを削減できるよう、設計プロセスの初期段階での労力を削減するとともに、実世界でのテストに先立ち、これまでよりもクリエイティブなデジタルソリューションを実現しようとしています」と述べています。
より機能するデータセットを作成するためにAIを活用
データセットを作成するにあたり、研究者たちはまず現在機能しているドローンについて少数の設計から着手してニューロシンボリックAIを作成し、制限をほぼすべて撤廃してそれらの設計を反復させました。その結果として得られた初期段階の設計で地上から離陸させることはほとんどありませんが、研究者たちはその機能性を評価し、成功した設計を増やすことで時間をかけてより大きなプールをつくることができました。研究者たちはこれらをもとに、例えば、翼は少なくともある程度水平でなければならないといったルールを自動的に学習するアルゴリズムを開発しました。人間が考えられるアイデアには限りがありますが、これは人間に依存せず、限界もありません。これにより、引き続きクリエイティブな選択をしながら、飛ぶ可能性がより高い設計を生み出すことができるようになりました。
AircraftVerseのデータセットには、研究者たちが2年半にわたり生成した設計が含まれています。翼が6枚もある機体もあれば、プロペラが最大12枚あるという機体もあります。20キロメートルの距離を移動できるものもあれば、まったく飛べないものもあります。ですが、バランスが悪かったり、実用的ではない形状があったりという、機能としてうまくいかない設計でも、新しいUAVを形作るための貴重なデータポイントを提供してくれるのです。
「大失敗の設計もあるかもしれませんが、そのおかげで、本当に優れた、これまで見たこともない設計を偶然見い出すこともあるでしょう」とCobbは述べています。機械学習メソッドは良いデザインと悪いデザインの両方を学ぶ必要がありますが、AircraftVerseはこれら両方のデータセットを提供しています。ドローンだけでなく、他の機械や乗り物もアルゴリズムをこのような複雑な設計で訓練できるようにする方法が分かったことから、SRIの研究者たちは、この技術を他の分野にも拡大しようとしています。彼らは地上の乗り物についても、同じように斬新な設計を数多く生み出そうと研究を続けています。
Jhaは次のように述べています。「これは、水中空間への応用や、果物収穫用など新しい種類のアームの設計にも応用できるかもしれません。航空機や自動車などの多くの産業では、一般に人が手掛けた設計は実際のところ一定のタイプの設計にとらわれてしまいますが、AIの支援により私たちがクリエイティブな新しい選択肢を検討することで、結果的により良いものができる可能性があるのです」