PEARLドリフターはコンパクトな自律型デバイスに様々なセンサーを搭載し、海洋の活動に関するデータや兆候を収集
表面積が約3億6,000万平方キロメートル(1億4,000万平方マイル)という地球の海の広大さを伝えるのは難しいですが、仮に海をすべて塞ぐには米国の50倍近い面積の大陸が必要になると考えてみてください。この広大さを念頭に置いて考えると、海で起こっていることの大半は未知のままなのです。
民間の研究者や営利事業体、政府が海洋事象を把握する助けとなるよう、SRIの研究者たちは洋上を漂う斬新な装置を開発しました。この装置はPEARL(Persistent Environmental Awareness Reporting and Location、環境に関する情報とその位置を継続的に報告する)ドリフターと呼ばれ、何千台も配備されて広範囲の洋上を漂いながら、多くの有用なデータを取得して陸(おか)に送信してくれます。PEARLドリフターによって広大な範囲を網羅するネットワークが形成されることから、海というまるで干し草の山から針を見つけ出すような、まさにことわざ通りのことが可能になり、環境モニタリングや国家安全保障のさまざまな使い道に有効に活用されるでしょう。
SRIのハードウェア研究・技術ラボ(Hardware Research and Technology Lab)のラボディレクターであるJulie Bertは次のように述べています。「海はどこも広漠として面白みがありません。しかし、このドリフターのようなものがあれば、何億平方キロメートルもあるすべての海をモニタリングしていると、興味をそそられる活動がここにありそうだ、と示してくれます。これは非常に重要です」
「このドリフターがあれば、まずモニタリング能力の穴を埋められます。遠隔の海域で何が起こっているかを把握し、これまでにないレベルのデータと知見を提供できる能力は、当社の顧客やパートナーにとって画期的なものです」とPEARLを商業化する取り組みをリードしているBrien Buckmanは付け加えます。
コンパクトでありながらセンサーを搭載し、用途が広い
このドリフターは、耐腐食性の素材でつくられた筐体(外枠のケース)に、小型でありながらパワフルでエネルギー効率の高い構成部品を搭載しています。この中には、海洋学のパラメータと同時に、船舶などの人為的な活動や人の存在を検出するセンサーが多数含まれています。
「これによって海流のリアルタイムマッピングなど、海洋活動を非常にはっきりと測定することができるようになりました。これらのデータを取り入れれば予測モデルの精度を高めることができるとクライアントは言っています。また、波のスペクトルや波高のバリエーションの提示も始めたので、配備や安全にかかわる意思決定にも役立てられます」とBertは述べています。
PEARLドリフターが、近年開発された海洋を漂う他のプラットフォームと一線を画しているのは、様々な検知能力を総合的にパッケージしつつ、低コストであることです。「最大の違いは、低コストでさまざまなセンサーを搭載できることです」とBartは述べています。
センサーが収集したデータの多くは、顧客システムにデータを送信する前に、異常検出アルゴリズムや関心のある信号に優先順位をつける方法などを用い、部分的に前処理を施します。SRIでソフトウェア・分析コンポーネントを担当するシニア研究員のEric Cockerは次のように述べています。「ドリフターは非常に多くのデータを収集しているため、その場所でデータを分析するオンボード処理が多く行われています。ドリフターは送信する際に大幅にデータを圧縮するため、クライアントが有益と判断するものを取り出します」
ドリフターは柔軟性に富んでいることもさることなら、そのセンシングパラメータは、データの特性をゼロに戻すように配備後に更新することもできます。例えば、しきい値や標本抽出率の設定を変更することができます。「クライアントが、『あのデータはもっと欲しいが、このデータは減らしてもいい』と言えば、すでに海の真っただ中に配備されているドリフターを希望に沿って設定できます。このように、クライアントは必要なときに欲しいデータと知見を得られます」とBuckmanは述べています。
希望に沿って可能な限り検知する
これらのセンサーは、検知できる能力のかなりの範囲をカバ-しています。環境に関する基本的な情報には、温度センサー、湿度センサー、気圧センサーがあります。搭載されているソーラーパネルでは、天気や気候のモデリングに重要となる太陽放射輝度を測定することができます。慣性計測装置には加速度計、ジャイロスコープ、磁力計が搭載されていることから、波の統計やその他のデータ計算に役立ちます。
また、顧客のニーズに応じたミッションに関係するセンサーを追加搭載することもできます。オプションとして、360度近い視野のある1組のカメラ、音を拾うマイクやハイドロフォン、無線周波数の使用を検出できるソフトウェア無線、生物発光を観察できる蛍光、揮発性有機化合物のセンサー、高感度の磁力計などもあります。
ドリフターは環境面も考慮して設計されています。例えば、Bertのグループはドリフターの構造にプラスチックの使用をできるだけ少なくしたということです。機器が砂浜に流れ着かないよう、ドリフターの小さなガラスパネルを割って空気と水を取り込み海底に沈めることができるようになっており、環境への影響を最小限にとどめます。この機能は、コマンドによって、あるいは地理的位置などあらかじめ設定された条件に基づいて作動させることができます。
「私たちはドリフターの寿命が尽きること、そして政府や他のクライアントにとって不都合な場所に流れ着かないようにすることに関しては、細心の注意を払っています」とBertは述べています。
PEARLの最新段階
これまでのところ、二世代のドリフターが製造されており、それぞれ1,500台と5,000台がクライアントに納入されています。大半のドリフターは米国防高等研究計画局(DARPA)のオーシャン・オブ・シングス・プログラム(Ocean of Things program)の一環として配備されました。このプログラムのウェブサイトによると、その目的は「数千台の小型・低価格デバイスを配備して分散型のセンサーネットワークを形成し、広大な海域における持続的な海洋状況認識」を明示することです。主にメキシコ湾内に配備されているのは、「ドリフターをうまく拡散させるループ海流があるからです」とBertは述べています。メキシコ湾流に乗せることで、ドリフターを北大西洋全体に拡散させています。
DARPAのプログラムは現在終了していますが、PEARLドリフターは引き続き、特に米軍の各部門から大きな注目を集めており、開発の第三段階が進行中です。「私たちは今後も、このプラットフォームから得られる知見に関心のある政府機関や営利事業体との関係を築くことを楽しみにしています」とBuckmanは述べています。
詳細については、PEARLドリフターのウェブサイトを ご覧 いただくか、直接お問い合わせください。