地域社会がつながり、繁栄するための道筋を理解し提言を作成するにあたり、SRIはNPOであるICIC(競争力のあるインナーシティに向けたイニシアティブ)と協力
地方にとって、公平性を確保しつつ競争力を得ることは、手の届かないことのように思われることが多いです。経済発展は長い間、勝者と敗者を生み出してきました。
この現象の主な原因のひとつは、意図的かつ協調的にインクルージョン(包摂)を推し進める戦略がないために、成長の重要な原動力であるイノベーションが生活コストを押し上げて都市の富裕化(ジェントリフィケーション)が進んでしまい、その結果ハイテクが基盤となった経済から取り残される傾向のある人々をさらに孤立させてしまうということです。
インナーシティのビジネスおよび経済開発に関する調査研究を手掛けるNPOのICIC(Initiative for a Competitive Inner City:競争力のあるインナーシティに向けたイニシアティブ)とSRIが発表した新しい報告書では、地域における主要産業の成長と発展において、公平性とイノベーションの双方の優先順位を高くする新しい場所をベースとした戦略を提案しています。報告書の著者らはこれを「Regional Economic Connectivity(地域経済の連結性)」と呼んでいます。
地域経済の連結性とは、大都市圏の成長と競争力を牽引している産業クラスターが、貧困の程度が高く、低所得層が密集して生活する地域でも事業を展開し、強力な雇用を生み出すことです。一例をあげると、連結性によって、互いに関係のないサプライチェーンのプロバイダーやサービス関連企業がネットワークを介することでそれぞれのビジネスがつながり、相互に利益と雇用をもたらす網のような関係が構築されます。
この報告書の共著者で、SRIのイノベーション戦略・政策センター(CISP: Center for Innovation Strategy and Policy)のディレクターを務めるChristiana McFarlandは次のように説明しています。「地域経済の連結性は、地域クラスターの利益や機会が、ある地域の特定部分にのみ偏ることなく、地域内で共有されることを目指しています。複数の研究によると、リソースが不足している地域の経済開発活動と、より広域の経済開発活動が密接に連携しているとき、つまり、両者が連結している場合、このようなリソースを欠く地域でも広域として同じように賃金や雇用の力強い伸びを享受することができるのです」
新しい視点
この連結戦略(コネクティビティ戦略)は、その地域の産業クラスターのニーズを理解すること、困難な状況にあるコミュニティに存在するビジネスチャンスを見出すこと、そしてそのクラスターの成長を後押しする資産開発やその他の戦略的投資に的を絞ることから始めます。例えば、その地域のクラスターと困窮地区のサプライヤーをつなげること、事業拡大のための用地を準備すること、公共交通機関や教育訓練など職へのアクセスに対する障害を取り除くこと、そして関連する保育や医療の受け皿を整備することなどがあげられます。
連結性を評価することは、地域社会が育成しようとしている、または誘致しようとしている事業や雇用の種類をより明確に特定して的を絞ることに役立ちます。さらには、新たなビジネスが発生する前から連結性の基礎を築くことになる、職業訓練や公共交通機関の整備などの改良にも優先順位を付けられるようになります。
ケーススタディ(事例など)
この報告書には、コミュニティの詳細な事例が数多く含まれています。例えば、オハイオ州クリーブランド市から近郊のエリリア市にかけての地域では、製造業を基礎とした連結性で高スコアを獲得しています。また、フロリダ州南東部のマイアミ市からフォートローダーデール市、そしてウェストパームビーチ市にかけては、金融サービスの成長が保険業界に同じような成長をもたらしており、この相互接続性の高い2つのビジネスが、この地域のリソースに欠けるコミュニティに対してプラスの影響を与えています。
この報告書の著者たちは、「クリーブランド地域では、主要なクラスターで雇用が維持されており、各クラスターに特化した開発戦略や再開発戦略を実践している。また、アクセスしやすい業界主導型のトレーニングも実施しており、鍵となる労働力サービスを包括的に提供している。これにより、連結が促進されている」と記しています。
一方、フロリダ州南東部のほうでは、「保険サービスのクラスターに属する10大職種のうち7種が高校卒業資格またはそれに相当する資格しか必要としていないため、クラスター内の仕事の多くは正規教育の水準が低い(リソースに恵まれない地域)の住民にとって非常にアクセスしやすいものとなっている」と記載されています。
しかし、また長所もあり、こうした仕事の報酬は高収入であり、困難な状況にあるコミュニティの住民の多くが、職場までの通勤時間が短く、拡張が計画されている公共交通機関を利用しやすいと著者たちは付け加えています。
具体的な提言
より積極的に連結性を促進するにあたり、地域社会のリーダーはどうすればよいのかという課題に注目して、McFarlandを含むこの報告書の共著者は多くの提言を記しています。その中には、「クラスター関連」のビジネスを誘致し、維持するためのインセンティブや戦略、リソースに恵まれないコミュニティやその近隣にそのビジネスを配置すること、また、教育・職業訓練のプログラムを追加してスキルのある労働者がそれらの職に就く準備ができるようにすることなどが含まれています。
計画に携わる人たちにとってはまた、マイアミ市のように金融サービスと保険を結びつけたり、ノースカロライナ州のヒッコリー市のように光ファイバー産業の成長が通信機器や通信サービスの成長を生み出したりしたように、従来は結びつきがさほどなかった潜在成長力の高い産業間の連結性を促進する方法を検討することも可能です。
地域経済の連結性には経済開発と労働力開発、そして地域開発の間に強力なパートナーシップが必要であるということを本質的に理解することが、このようなコミュニティが成功する鍵になります。「地域経済を連結させることは難しいことであり、粘り強く、そして深く協力することが必要です。また、リソースに恵まれないコミュニティを負債と認識するのではなく、この地域にもたらしてくれる資産に目を向けることこそが、連結性の真の力なのです」とMcFarlandは述べています。