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思春期の脳の発達に関する全米規模の縦断的研究の一環として、SRIの研究者たちはAIを使ってデータを分析し、肥満のリスク因子を突き止めた
SRIの研究者たちは、米国の青少年で構成される約3,000人の被験者群にFitbitデバイスを装着してもらい、このデバイスで収集した睡眠や身体活動、心拍数など数々の生体データを機械学習を使って調査し、青少年の肥満に関する健康面の具体的な警告サインを発表しました。
SRIのHuman Sleepラボのリサーチサイエンティストであり、この論文の筆頭著者のOrsolya Kissは次のように述べています。「この研究では、単純な関連性の奥に存在する、重要なリスクの閾値(しきい値)を特定します。具体的に言うと、肥満を促進する様々な生体に関する情報と人口統計学的な要因、そして行動学的な要因の間の相互作用を探っています。私たちは、小児科医や栄養士のような医療の専門家が、肥満のリスクが最も高い子供たちに支援をさしのべ、効果的な新しい介入策や治療法を開発する際に、これらの閾値を活用することを願っています」
肥満は、米国全体、特に青少年において、常に公衆衛生上の重大な懸念になっています。6人に1人が肥満と診断されており、それ以外の3分の1が肥満のリスクを抱えていると言われています。このリスクは人種、民族、社会経済的な階層で顕在化しており、マイノリティ集団や低所得者層での有病率が高く、また、この傾向はここ数十年で悪化しています。しかし、さらに厄介なことに、思春期の肥満は成人期まで続くことが多く、全体的な健康と寿命への悪影響がより大きくなっているとKissは語りました。
思春期の健康に関する脳認知発達
学術誌「Nature Scientific Reports」に掲載されたこの研究は、SRIが思春期の脳認知発達(Adolescent Brain Cognitive Development:ABCD)研究に寄与する一環として発表された、査読付き論文の1つにすぎません。10年前から続いている、米国を中心としたABCD研究は現在も進行中で、数万人の参加者からデータを収集しています。この研究は、脳の発達と子どもの健康に関する長期間の研究としては過去最大規模で実施されており、このデータから2,000近くの査読済み論文が発表されています。
「この研究結果が、思春期の睡眠を改善する医療や睡眠の専門家たちの指針になることを願っています」―Jason Nagata
SRIはこのABCD研究に寄与している21の参加機関の1つであり、データを提供するとともに研究結果も発表しています。この肥満リスクに関する研究論文の共著者には、SRIのCenter for Health Sciencesとその傘下にあるHuman SleepラボのディレクターであるFiona Bakerがいます。BakerとKissが共著者となっているABCD 研究 には、この他にもカリフォルニア大学サンフランシスコ校の小児科医であるJason Nagata医師が主導した、思春期における電子機器の使用と睡眠健康との関連についての研究があります。
Nagata医師は、「就寝時における電話やソーシャルメディアの使用は、睡眠障害と関連していることがわかりました。肥満研究のデータと同様に、私たちの知見が思春期の睡眠を改善する医療や睡眠の専門家に対する指針として役立つことを願っています」と述べました。
顕微鏡下で判別できるリスク要因
この肥満に関する研究で特定されたリスク因子は、非白人人種や低所得世帯といった人口統計学的なデータから、就寝時間が遅いことや睡眠時間が短いこと、睡眠のタイミングがばらつくこと、1日の歩数が少ないこと、心拍数が高いことといった個人によるものや身体的なものにまで多岐にわたっています。
Kissは、「これらの調査結果は、十分な睡眠をとることの重要性と、運動不足が及ぼす代償の高さを浮き彫りにしています。そして、社会経済的な不平等が、青少年の肥満リスク上昇に寄与していることが多いとも指摘しています」と述べています。
SRIの研究は、主にこのABCD研究で得られた大量のデータ分析に重点を置いています。Kissによると、この研究成果は、臨床医や政策立案者、栄養士などが思春期の肥満に対応するにあたり、考えうる介入策を検討する際に情報を提供するとともに、指針となることを目的としています。
この点に関して、Kissが強調したのは、機械学習は科学的なデータの予測につながる力を高めてくれる貴重なツールであり、研究者が単体の要因からだけでなく、要因間の複雑な相互作用や従来の方法では明らかにできないような、具体的な閾値を特定することができるということです。
「この研究は、睡眠と心血管系の健康状態を常時モニタリングできるウェアラブルデバイスを臨床に応用できる可能性を強調するものであり、肥満リスクに差し掛かる転換点を指摘することで、肥満リスクのあるグループの健康状態を改善できるであろう、効果的な介入や治療につながると考えています」とKissは述べています。
これを踏まえ、Kissらのグループは、研究対象を肥満以外にも拡大し、これらの研究から得られる知見や今後得られる知見を基にして、地域社会を対象とした介入策や治療法を開発する潜在性を検証しています。
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