物質を変容させる:アモルファス構造の塊から完全な結晶を作り出す研究者たち


2つ以上の半導体で構成される新種類の電子デバイスの作成を目指す


これまで75年間の間、半導体は世界を変えてきました。その中で最もよく知られているものはシリコンですが、他の半導体もシリコンにはない魅力的な電子的な特性を有しています。例をあげると、シリコンは発光したり高周波で動作したりすることができません。研究者たちは長い間、種類の異なる2つもしくはそれ以上の半導体を組み合わせようと研究してきましたが、そもそも異なる半導体は相性が悪いのです。SRIやいくつかの代表的な大学に所属するナノファブリケーション(Nanofabrication)の専門家は、米国防高等研究計画局(DARPA: Defense Advanced Research Projects Agency)の代わって、この状況を変えるべく挑戦を続けています。

SRIのシニアリサーチサイエンティストで、DARPAのM-STUDIO(Material Synthesis Technologies for Universal and Diverse Integration Opportunities:普遍的で多様な統合の可能性を追求する材料合成技術)の主任研究員であるDavid Hillは次のように述べています。「ナノファブリケーションの観点から見ると、DARPAが解決しようとしている問題の難易度は、『非常に難しい』と『不可能である』の間に位置すると言えるでしょう。ですが、この新しいアプローチは非常に興味深いのです。ゴールは、相性の悪い半導体材料から成る2つの薄い層で1つのチップを製造することです」

「異なる種類の半導体を重ねようとすると、材料が接する部分の結晶構造が一致しません。このようなミスマッチは欠陥となり、半導体の性能劣化の原因となるのです」とHillは補足しています。

原子を組み替えて新しいものを作る

HillとSRIのチームは、プリンストン大学プラズマ物理研究所(Princeton Plasma Physics Lab)、カリフォルニア大学サンタバーバラ校、コロンビア大学の研究者たちと共同研究を行います。このチームは、プリンストン大学プラズマ物理研究所でその一部が開発された「ハイパーサーマルビーム(Hyperthermal beam)」と呼ばれる新技術を使って、2層2重半導体デバイスの上層にある原子を移動させて再配列し、欠陥のない完全な結晶構造にします。

Hillは次のように説明しています。「この方法は、他のアプローチとはかなり異なります。というのも、ナノファブリケーションの特定のルールに違反しているのです。そしてこのアプローチは、従来のような高熱を必要としません」

「ナノファブリケーションの観点から見ると、DARPAが解決しようとしている問題の難易度は、『非常に難しい』と『不可能である』の間に位置すると言えるでしょう。ですが、この新しいアプローチは非常に興味深いのです」―David Hill

このプロセスをわかりやすく説明すると、チャコールグレーのシリコンの薄い層の上に、形が定まっていない2層目の半導体の塊がのっていると想像してみてください。研究チームは、ハイパーサーマルビームを使って中性原子の流れを発生させてこの塊の中の原子を再配列して、完全な結晶にします。界面層の原子配列は、2つの半導体を合わせた機能と、上部に形作られる層の構造にとって非常に重要です。

この結果、2つの半導体のそれぞれの機能を維持したまま、1つのデバイスにすることができます。接合された半導体は回路としてともに作動し、これまでは不可能だったデュアル機能を実現することができたのです。

「ハイパーサーマルビームは、アモルファス構造の材料を可能な範囲内の配置に落ち着かせる際に、エネルギーや運動量、そして再配列する時間を与えます。最終的に、形が定まっていなかった半導体の塊は、この完全な結晶に自然に落ち着いてくれるのです」とHillは述べています。

デバイスの作り方を変えることで、応用の可能性が広がる

DARPAの研究は2つの段階からなるプロジェクトです。第1段階では、ハイパーサーマルビームによるアプローチの概念実証を開発し、ミスマッチのある基板上に単一材料の半導体で厚さ10ナノメートルの結晶を形成します。第2段階では、2つ目の半導体を加えて、最初の半導体の上に新たな結晶を形成し、真のマルチ素材構造を作ります。

この新しいアプローチが成功すれば、極小デバイス、特に複数の材料を使ったデバイスの製造方法を完全に覆すことができ、画期的なイノベーションにつながる可能性があります。例えば、光を導くシリコン製の高度なチップと、光を発生させるオンチップレーザーを1つのデバイスで賄うことができます。また、シリコンのデジタル精度と、窒化ガリウムやヒ化ガリウムのような材料の高出力と周波数制御能力を組み合わせた新しいレーダーシステムという、素晴らしい応用分野も考えられます。これができれば、このようなデバイスをかつてないほど効率的かつ強力で多用途なものにすることができるでしょう。

「現段階で個々のチップが2つの機能を果たすのは、それらを組み合わせてシステムにしたときだけですが、この新しいプロセスは、1つのチップ上で複数の機能を組み合わせることになります。これは、ナノファブリケーションの全く新しいメソッドとなるかもしれません」とHillは述べており、将来的な応用性の可能性を示しています。

布声明A:公的なリリースが承認されています。配布に制限はありません。
(Distribution Statement “A” (Approved for Public Release, Distribution Unlimited)


Read more from SRI