
長寿のげっ歯動物の細胞を研究して、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患に作用する新しい創薬の標的を探索
アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患は、世界中で何百万人もの人々を苦しめていますが、現在は有効な治療法がありません。しかし、SRIの研究者たちは、ハダカデバネズミという不思議なほどに長生きをする東アフリカ原産のげっ歯動物が、新しい創薬標的の鍵を握っているのではないかと期待を寄せており、難病の治療や治癒に役立つのではないかと考えています。
SRIのバイオサイエンス部門のプログラムディレクターであるDanuta Sastreは次のように述べています。「効果的な治療法の開発を妨げている原因の1つは、これらの疾患に対する創薬の標的がないことです。私たちのゴールは、加齢に関連する健康の衰えに対して耐性があるハダカデバネズミの全遺伝子の機能を調べることです。これにより、他の方法では同定できなかった新しい標的を見つけることができればと期待しています」
ハダカデバネズミはいろいろな意味で珍しい動物です。この毛のないげっ歯動物は、繁殖を行う一匹の女王ネズミを頂点として地下のコロニーで生活しており、その生活様式は一般的な哺乳類よりもアリやミツバチに近いです。また、神経変性疾患やがんの罹患率が非常に低く(研究者が意図的にがんに罹患させることさえ難しい)、マウスとほぼ同じ大きさであるにもかかわらず約10倍も長寿なのです。
「ネズミは4年ほど生きることもありますが、これでも長生きです。ですが、このデバネズミは39年も生きたという記録があります。これは人間のスーパーセンテナリアン(110歳の人)に匹敵します」とSastreは述べています。
加齢関連疾患の秘密を解き明かす
ハダカデバネズミは年をとっても若々しく、なぜか関節や心臓に異常を生じることがなく、損傷を受けたタンパク質やミスフォールドした(フォールディングに失敗した)タンパク質の蓄積を回避しています。そして、このタンパク質の蓄積回避がSastreの研究にとって最も重要なことです。ヒトの体内では、非機能性のタンパク質が凝集することによって細胞機能を破壊してしまうことがあります。よって、多くの加齢関連疾患や神経変性疾患のマーカーとして非機能性タンパク質が使用されています。健康な人でも、年を重ねるにつれて、このようなタンパク質のゴミを除去する能力が低下します。アルツハイマー病やパーキンソン病、その他これらと同じような疾患では、このタンパク質のゴミがより早く、より多く蓄積するのです。
「ハダカデバネズミの助けを借りて、加齢関連の重篤な疾患を食い止められるような遺伝子の青写真を明らかにしたいと思っています」―Danuta Sastre
ACTIVEプログラム(Advanced Cellular Target Identification and Validation Engine program:高度な細胞標的の同定および検証エンジンプログラム)の一環として、Sastreとそのチームは、なぜこのようなタンパク質の凝集がハダカデバネズミでは起こらないのかを理解すべく、細胞について研究しています。ヒトとハダカデバネズミには多くの共通遺伝子があることから、SRIの研究者たちは、この答えがヒトの細胞機能を回復させるためのロードマップになるのではないかと考えています。
「私たちは、すべての細胞のタンパク質凝集に関わる共通メカニズムを解明しようと取り組んでいます。ハダカデバネズミがこの細胞のゴミをどのように処理しているかを研究すれば、ゴミの蓄積が同じように共通している疾患に応用できるかもしれません」とSastreは述べています。
細胞の科学
研究者たちはハダカデバネズミの細胞を数年かけて培養し、細胞内の個々の遺伝子を操作できる、カスタマイズ可能な遺伝子編集試薬を開発しました。SRIのリサーチアソシエイトであるVanessa Vanuyが試薬の製造プロセスを主導しており、SRIの博士研究員であるPaula Kempeが細胞株の特性評価を担いました。Sastreのチームは近々、ハダカデバネズミの細胞内の各遺伝子を1つずつ解明することに取り掛かる予定です。
ある遺伝子を除去した後に様々なタンパク質が蓄積するのであれば、除去をした遺伝子がタンパク質の凝集を防ぐのに寄与している可能性があり、ヒト細胞内の不要なタンパク質の蓄積を抑制するように設計した新薬の有望な標的になるかもしれません。研究チームは、人々を救えるような治療法をできるだけ早く発見したいと思っています。
「SRIには、医薬品開発における長い歴史があり、医薬品を迅速に特定・開発して市場に送り出すための専門知識もあります。SRIのこのチームは、難病に対して新しい治療法を生み出すことに情熱をもって取り組んでいます。そして、ハダカデバネズミの助けを借りて、加齢関連の重篤な疾患を食い止められるような遺伝子の青写真を明らかにしたいと思っています」とSastreは述べています。
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