無線プロセッサーは、静的ソリューションがしばしば失敗する通信環境で必要とされる
世界には無線で通信する商業用機器や軍事用機器があふれています。このような機器が、限られた電波帯域を奪い合うために空も混雑しています。未登録のドローンが無認可のWi-Fiを使って通信したり、レーダー信号がWi-Fi信号に干渉する、など。通信チャンネルやパターンをその場で変更し干渉を避ける「再構成可能な無線機」は、この現実を見据えて考えられたものです。
「自律型無線機」は、スペクトルの効果的なモニタリングに対してセキュリティ上の課題を呈しています。というのも、複雑な信号ですでにいっぱいとなっている広範囲のスペクトルの変化をリアルタイムで検知し、新しい信号とその発生源を検出・追跡できるような、高性能の無線周波数(radio frequency: RF)プロセッサーが必要です。
今日まで、このような難題に対応できる装置はありません。しかし、SRIの研究者とカリフォルニア大学デービス校、ならびにカリフォルニア州立大学フレズノ校の研究者が共同で構成したチームが先日、米国防高等研究計画局(DARPA)から複数年にわたる資金援助を獲得し、PROWESSプログラム(Processor Reconfiguration for Wideband Spectrum Sensing program、広帯域スペクトルセンシングのためのプロセッサー再構成プログラム)下で実行時に再構成可能な認知型スペクトルプロセッサー(Runtime Reconfigurable Cognitive Spectrum Processor: R2CSP)の開発に着手しました。
SRIでこのプロジェクトの主任研究員を務めるDavid Zhangは、「R2CSPはAIを使って電波スペクトルを解釈して、絶えず変化する環境に適応します。これにより、レーダーや電子通信において危機的と言える複雑かつ不確実な環境下でも、これまでにない状況認識が可能になります」と述べています。
このチームの目標は、広帯域の無線スペクトルをサンプリングして潜在的な干渉を克服し、共有スペクトル上で通信するエージェントを区別して重要な信号と重要でない信号を識別することによって、実行中のタスクを50ナノ秒以内に再構成できるようなプロセッサーを開発することです。これは、数百から数千の信号を常に処理するために十分な性能です。
私たちはこれを、プログラムの再配置やリソースの再割り当てができる計算反射メカニズムだと考えています。– David Zhang
Zhangによると、このような新しい無線プロセッサーは、静的であらかじめプログラムされたソリューションが使えなくなることがよく発生する、複雑かつ混雑していて、不確実性の高い軍事部門や民間の通信環境で必要とされるのではないかとのことです。既存のシステムは「ハードウェア定義」であることから、RF信号の環境が変わっても切り替えることができません。
R2CSPは高速にタスクを切り替えられるため、AIの力を借りて再プログラムを素早く実行することができます。「私たちはこれを、ほぼ瞬時にプログラムを再配置してリソースを再割り当てし、妨害電波や周波数ホッピング、その他の敵対的攻撃を含むRF環境の変化に対応できる、計算された「反射メカニズム」であると考えています。」とZhangは述べています。
技術的に説明すると、R2CSPは高密度の再構成可能な処理配列をリアルタイムのスケジューラーと結び付け、超高速スイッチングと高密度コンピューティングを実現します。コンピューティングの面においてSRIと共同研究者は、MIMD(複数命令複数データ、Multiple-Instruction-Multiple-Data)処理として知られているアプローチを活用します。この処理では、複雑な数学的要求を並行して作動する1000以上の計算コアに分散させることができ、各コアは要求に応じて迅速なスイッチングが可能になっています。研究チームは、AIを使ってスペクトルを分析し、重要なRFと重要でないRFを区別することで、関係のない信号のスキャンに費す計算時間が削減できるのではないかと期待しています。
「無線の自律性は複雑な課題ですが、エキサイティングかつ重要な、取り組むべき課題でもあります」と、Zhangは今後の開発について述べています。
本資料は、米国防高等研究計画局(DARPA)の契約番号HR001123C0100下にて支援を受けた事業に基づいています。本資料で表明された意見、発見、結論、または提言はすべて著者に帰属し、米国防高等研究計画局(DARPA)の見解を必ずしも反映するものではありません。