高齢化する日本をスマート・ジャパンに転換

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最新の高度なテクノロジートレンドに基づく新しい創造的なイノベーションは、関連するさまざまな課題に価値のあるソリューションを提供する可能性があります

SRIインターナショナルは、世界をリードする技術研究開発機関として過去75年にわたり、世界に大きな影響を与えた広く知られる数々の技術革新を開発・提供してきました。世界初のインターネットプロトタイプ(ARPANet)から、最初のモバイルロボット(Shakey)、最初のパーソナルアシスタント(Siri)、最初のロボット手術システム(daVinci)まで、数えればきりがありません。SRIは日本支社を介して、約60年にわたりさまざまな業界で日本のイノベーターを支援してきました。

近年、SRI日本支社は日本のお客様から「労働力の高齢化と減少」「イノベーション手法の陳腐化」「インフラの老朽化」などの課題を解決するための新たな技術ソリューションの開発を支援してほしいという依頼を受けることが多くなりました。これは、日本が深刻な「高齢化」の危機に直面していることを示しています。そして、これはいわゆる「高齢化社会」のみにとどまることではないようです。

日本の高齢化社会

世界有数の長寿国である日本は出生率が人口置換水準を大幅に下回っていることから、高齢化と人口減少が急速に進んでいます。現在、日本は100歳以上の人の割合が世界で最も高くなっています。厚生労働省によると、65歳以上の高齢者は日本の人口の4分の1以上を占めており、今後10年間で3分の1に、2060年には全人口の40%に近づくと予想されています。移民政策を最小限に抑えてきた日本は、この人口動態の変化がもたらすであろう深刻な経済的課題に対応しようとしています。

最新の技術トレンドから生まれたイノベーションは、「高齢化」に関連する様々な課題の解決に寄与する貴重なソリューションを提供してくれることでしょう。これには、労働力の減少、高齢化する労働力へのスマート支援(農業分野など)、古くからの製造業では熟練者から若者への知識と技術の伝承、特に遠隔地での高齢者向け医療サービスなど重要課題も含まれます。

日本のイノベーションモデルの「高齢化」

歴史を振り返ると、日本は常に新しい発明を取り入れて発展させ、重要なニーズに応える価値の高いイノベーションを生み出すことに長けていました。例えば、5世紀の日本語の文字の発展から近代戦後の自動車生産、造船、半導体産業、TQM(Total Quality Management:総合的な品質管理)プロセスなど、幅広い例を数多くあげることができます。

しかし現在、世界は再び大きな変化を迎えており、今回の変化はかつてないほどの速さです。イノベーションのエコシステム、グローバル市場や地域市場、競争の特性(地理的な競争のみならず、産業間の競争も含む)、海外の他の地域での近代的なイノベーションプロセスの台頭などがその代表例です。したがって、数十年前に日本がバブル経済に達するほどまでになった、かつての古いイノベーションの手法は、日本の「新しい現実」にはうまく適合しないかもしれません。幸いなことに、海外の他の地域には成功しているイノベーションのエコシステムが数多くあることから、日本はそこから学び、それを採用して適応し、さらに発展させることで日本の現在におけるイノベーションの課題に対応することができます。シリコンバレーで実証されたイノベーション・エコシステムやイノベーション・フレームワークは、日本のイノベーターにとって非常に良い参考事例となるでしょう。

老朽化する日本のインフラ

20世紀は日本にとって「建設」する時代でした。日本の主要な道路、橋梁、トンネル、下水道システムなどは戦後や高度経済成長期の50年代、60年代、70年代に建設されて一般の人々が使用するようになったものですが、今やその大半が老朽化しています。国土交通省によると、2026年には日本の橋の半数近くが建設より50年以上経過すると言われています。近い将来、多数の橋が耐用年数を迎えることが予想されるとの報告もあります。

国土交通省の調査によると、修復が必要な日本の橋梁や高速道路のトンネルは全体の6割にのぼり、大規模修繕を待っている状態です。多くの重要インフラの崩壊(例えば、2012年の山梨県笹子トンネル崩落死亡事故)は、その老朽化が原因であると言われています。特に、日本は地震多発地帯に位置しているため、経年によりリスクが高まります。通常、50年経過した橋梁などのインフラは新たに作り変えるべきだと考えられています。しかし、これらのインフラを再構築するには多額の費用がかかり、交通量の多い周辺地域への影響も大きくなります。そこで、政府は予防保全や修繕を行う方針に転換しました。ハイテク技術の進歩と技術面での研究開発による機能の進化により、国内インフラの寿命を延ばすことが可能になったのです。より改善された系統的な検査、予防保全、そして革新的な補強を行うことで、このようなインフラの寿命を延ばすことができます。

日本に新たな可能性を求めて

日本は高齢化社会、イノベーションモデルの陳腐化、インフラの老朽化という課題を抱えていますが、「高齢化」は必ずしも危機につながるわけではありません。「高齢」ということは、知恵が備わっており、経験が豊富で、明確なビジョンがあり、成熟した判断能力があり、リソースをより効率的かつ効果的に活用する能力があるということを意味する事でもあるのです。最新トレンドとテクノロジーの研究開発の進歩に基づいた、スマートでカスタマイズされた革新的なソリューションを開発することで、このような高齢化に関連する課題の大半にうまく対応できる可能性があります。それ以上に、技術革新の適応が成功すれば、日本は高齢化に伴う課題をさらなる経済成長を促進する新たなチャンスに変え、国際社会においてより主導的な役割を果たすことができるようになるかもしれません。

筆者:Youssef Iguider, VP of Business Development & Japan Country Director, SRI International, Japan(イギデル ユセフ, SRIインターナショナル日本支社長)


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