リモートワークやデジタルワークプレイスツールの活用が急増し、個人ステータスはこれまで以上に重要に
スマートフォンのオートコレクト機能から高速道路での自動運転にいたるまで、人工知能(AI)によって私たちの生活上のワークフローのほとんどが大きく変わりました。こうした進歩にもかかわらず、中には20年以上も変化していないものもあります。それは、ほぼすべてのデジタルワークコミュニケーションツールにある「ステータスの表示機能」です。その昔ながらの”見た目”は、ステータス表示が使われ始めた時から変わらず、かつてのICQやAOL Instant Messengerの表示デザインと全く同じです。ですが現在も、オンライン(アクティブ)、アイドル状態、退席中といった表示だけで十分でしょうか。
リモートワークが増え、SlackやMicrosoft Teamsといったデジタルワークプレイスツールの活用が急増している中で、個人のステータスはこれまでにないほど重要になっています。仕事をする際に、誰が近くで仕事をしていて、誰が連絡可能かを知るには、緑色の「アクティブ」の表示を確認するしかありません。
「ステータス表示」についてイノベーションがない理由には、技術的なものだけでなく心理的なものも存在します。ステータス表示は、現在自分が連絡可能な状態かを伝えて自分を表現する手段ですが、例えば「常に連絡可能」という長時間労働など有害な文化を生み出す可能性もあります。現在のような限られた種類のステータスの通知では、分断が深刻化したり、燃え尽き症候群にも繋がる可能性があります。ここ数年の従業員の幸福度は最低水準で、離職率の高さから“大退職 (Great Resignation)”という表現が使われるほどです。
新型コロナウイルスのパンデミックによってハイブリッドなワークスタイルへと急速に移行したため、これまでにない新しい職場環境が必要になりましたが、緑色に光る「オンライン(アクティブ)」のステータス表示だけではこの新たな環境に対応できません。
存在感の可視性を向上させる方法
AIであれば“ステータス”を進化させて、この新しい未来の働き方に適応させるという重要な役割を果たすことができます。PulseはSRI Internationalのスピンオフ企業であり、AI、自然言語処理、および意味解析を使ってこの問題に取り組んでいます。
Pulseは、何百もの組織や従業員にも対応した大量のデータソースを分析します。次に、このデータをリアルタイムに処理して、自分が実際に連絡可能かを同僚たちに知らせるための最適なステータスを生成します。
これらのデータソースとなるシグナルには、仕事をしている人のタイムゾーン、カレンダー上のイベント、作業時間、チームの共有アプリ、作業場所などが含まれます。さらには、自分がタスクに集中しているかどうかもシステムが判断します。Pulseはスポーツチームや音楽など、仕事以外のユーザー共通の関心事項についても分析し、今までにはなかった仲間意識を取り戻します。
これらのシグナルは、スマートウォッチ内の歩数、聴いている音楽、最近見たNetflixの番組、地元の天気、さらには気分の指標など多岐にわたりますが、そうした情報は、現在のデジタルワークプレイスからは簡単には取得できません。
Pulseは、タイムゾーンや会議のない日など、従業員や会社が定義したさまざまな設定をもとに、ワークプレイスやパーソナライズされたデータからユーザーの意図に応じて最適なステータスを生成します。最終的には、ステータスを自然言語で表示することを目標としています。
Pulseではこれらのシグナルを処理するために、SRI InternationalのAIおよびデジタルアシスタントプラットフォームであるCALO(Cognitive Assistant that Learns and Organizes:学習・整理する認知アシスタント)、およびSRIのSTAR Lab(Speech Technology and Research Laboratory)のノウハウを活用しています。
Pulseが生成するステータスはできるだけシンプルなもので、例えば「終日予定あり。朝から飛行機にて移動」、「取り込み中のため午後に連絡してください」、 「ニルヴァーナ(音楽)を聴いています。1時間後に会議の予定」 といった具合です。どのような状況であっても、Pulseは無数の組み合わせの中からステータスを生成し、それぞれのワークスタイルに応じて進化します。
ワークスタイルの定義は、ユーザーまたはチームが、Pulseの設定からコミュニケーション方法に関する明確な境界線を設定できます。ユーザーができることは、勤務時間の定義や通知を送信してよいタイミングに関するルールの定義、集中時間や作業負荷に基づいた連絡可否の最適化、および関心事やその他の活動などを共有するためのルールの作成です。
現在のところ、Pulseの顧客からは、集中時間が65%増加、従業員の幸福度が28%増加し、かつチームの連帯感が高まったとの報告があります。
Pulseを使って未来の働き方を把握する
このようなシステムは、通常のシステムに比べて何倍も複雑です。大量のシグナルの多くはサードパーティのデータソースからのものですが、その他にデスクトップやスマートフォンといったユーザー自身のデバイスからのシグナルもあります。それらのシグナルをリアルタイムで処理や統合、そして分析する必要があります。Pulseシステムは、ユーザーの様々な履歴から仕事や行動のパターンを判断し、ユーザーや組織が定義した目標を達成できるように最適なステータスを予測します。その目標とは、例えばワークプレイスの自律性を更に高める、中断を減らして集中時間を増やす、そして他のチームメンバーともっと気軽にコミュニケーションする、などです。
Pulseはステータスを生成すると、テキストをチームメンバーにとってよりフレンドリーで読みやすいものに変換します。ステータスとして一番望ましいのは、自分で書いたようなもので、ほとんどの場合、連絡可能な状態かどうかよりも、個人としての表現や関心事のようなことです。システムが稼働する中で、やり取りや通知を測定してフィードバックのループを構築します。
メタバースとその先
Facebookは社名をMetaに変更し、メタバースに数十億ドルの投資をしています。当初の目標である仮想現実と拡張現実のエクスペリエンスの融合は、想像力次第です。Facebook Horizonでは、仕事をしている人達は仮想空間に接続することであたかも隣同士で仕事をしているかのように共同作業ができます。実際に職場にいる場合だと、あなたの存在自体が自分のステータスとなります。例えば、ヘッドフォンをしていれば「何かに集中している」ことを示したり、同僚と話していたり、「ファンであること」をアピールするためにお気に入りのスポーツチームの帽子をかぶっているといったことでその人のステータスが分かります。メタバースで仕事をしているときは、あなたの存在そのものや実際の歩き方、着ている服装で自分のステータスを表現できるのです。
Pulseを使えば、各メタバース空間であなたへの連絡可能ステータスをコントロールでき、連絡可能であることを伝えたい同僚だけにそのステータスを表示することもできます。仮想空間での服装さえも、その時の気分に合わせて自動的に変更されるかもしれません。
デジタルオフィスまたはメタバースのどちらの場合でも、その存在感とステータスは未来の働き方において不可欠なもので、Pulseを使えばレイヤー全体に活用できます。
未来の働き方ではリモートで仕事が行われますが、デジタルワークプレイスのコミュニケーションツールでは、ステータスと存在感が最重要になります。すでに現時点で、Pulseはさまざまなエンドポイントをつなげて、ユーザーの意図を理解できるAIレイヤーを構築しています。
Author: Raj Singh, CEO and Co-founder of SRI spin-out, Pulse — Automatic Status
(著者: Raj Singh、SRI スピンアウトの CEO 兼共同創設者、Pulse — Automatic Status)