FOX Three分子誘導細胞標的化システム


細胞のバリアを超えて高分子医薬品を運ぶ「FOX Three分子誘導細胞標的化システム」


「75年間のイノベーション」シリーズでは、SRIが設立された1946年から現在に至るまでの数々の画期的なイノベーションを取り上げます。SRIの英語ブログでは、2021年11月の75周年を迎える日まで、毎週1つずつイノベーションに関する記事をリリースしています。この日本語ブログでは、その中からいくつかを日本語にてご紹介します。

「Fox Threeにより、生物学的製剤の使用が大きく広がる可能性が生まれます」ー Nathan Collins博士(Chief Strategy Officer, SRI Biosciences, a division of SRI International)

1960年代のSF映画「ミクロの決死圏(Fantastic Voyage)」は潜水艦にまつわるものでしたが、人間のサイズを小さくして、負傷した男性の体に医師が入って脳を修復するというシーンがありました。この映画は単なる物語だったかもしれませんが、病気の治療においては非常に重要なこと、つまりドラッグデリバリー(治療が必要な箇所への薬物送達)についてさまざまなことを示唆しています。薬を「適切な場所にヒット」させる方法は、薬そのものと同じくらい重要です。しかし薬物分子が大きい場合、これはとりわけ困難となります。

SRI Internationalは、「FOX Three分子誘導細胞標的化システム(MGS)」という独自の誘導システムを使用し、高分子医薬品の送達の問題を解決しました。今回は、SRIが大きな分子を薬物送達の新たな次元にもたらした方法についてお伝えします。

有効な場所に高分子を確実にヒットさせる「FOX Three MGS」

薬物はサイズ、つまり“大きい/小さい”で区別できます。この分類システムは分子量(サイズ)に基づいており、薬物が体全体や特定の標的部位にどのように送達されるか分かりやすくなります。ほとんどの医薬品は「小さいサイズ」に分類されます。これは900ダルトン(Da)未満です(ダルトンは統一原子質量単位)。小分子医薬品は通常、錠剤として経口摂取できます。つまり、錠剤などの経口投与の薬物は患者に渡しやすく、患者は自宅や見守ってくれる人がいる環境に持って行くことができます。そして、摂取されるとすぐに血液中に吸収されます。

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しかし、もう一方の高分子医薬品は、大きな薬効の可能性を秘めていますが、「サイズが大きい」ため標的とする場所に簡単に送達できないという問題があります。高分子医薬品の例として、ワクチン、組織、遺伝子、血液成分(血漿など)といった「生物学的」医薬品があります。皮膚筋炎や潰瘍性大腸炎等の症状がある患者など、一部の自己免疫患者は、メトトレキサート(454 Da)などの単純な薬物に反応しないため、高分子の生物学的治療が検討されます。

これら大きな分子を、医学的介入(治療)が必要な身体のシステムに取り込むことは複雑な作業です。SRI Internationalが開発した「FOX Three 分子誘導細胞標的化システム」は、細胞システムに元々あるバリアを乗り越えるために設計されました。次に、MGS(分子誘導細胞標的化システム)の仕組みをご説明します。

細胞のバリアを乗り越え、効果的なビッグモジュール治療を実現

人間の細胞の構造は、特定のものを“入れる/入れない”ようになっています。これを行うために、細胞は二重層を形成する3つのクラスの脂質で作られた半透膜を使います。薬物などの外因性分子の場合、薬物分子はこの膜を通過して作用する必要があります。

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生物学的製剤などの大きな分子の場合、細胞膜がバリアのように機能するため、薬物分子は通過できず、生物療法薬の細胞内への薬物送達の妨げとなります。FOX Three MGSはこのバリアに対処するため、膜障壁を越えて高度に標的化・制御された状態で大きな分子を送達するプロセスを使用します。FOX Three技術は、モデリングを使用して標的細胞上の受容体をペプチド(アミノ酸が2〜49個連鎖した状態)に一致させてから、詳細な要件に合わせてペプチドを合成することで機能します。ペプチドは「MGS」と呼ばれる独自の送達剤になり、ペプチドは薬物と共に膜を通過し、薬物を標的細胞に送達します。「標的化送達」は、標的以外の他の細胞への導入を回避するため、薬物感受性の可能性を軽減することができます。FOX Three MGSの重要な差別化要因の1つは、「細胞内に入ると、ペプチドが薬物を必要な場所(細胞小器官など)に向かわせる」ことです。MGSはモジュール式であるため、事実上すべての生物活性化合物を標的へ運ぶことができます。

MGSは、高分子および小分子を対象とした治療、多くの病状、インビトロおよびインビボ診断に加え、がん、細胞内ナノ粒子送達、革新的な免疫療法の個別療法に使用できます。

安全で効果的な薬物送達により、患者の転帰を向上

20世紀には、新たなタイプの医薬品が数多く開発されました。これらの医薬品は私たちの平均寿命を大幅に伸ばし、最も複雑な複数の病気をもつ患者が生活水準を向上させるのに役立っています。分子モデリングやコンビナトリアル化学(combinatorial chemistry)といった創薬の新技術により、多くの薬物が市場にもたらされましたが、その一部は大きな分子によるものでした。しかし、これらの大きく複雑な生物製剤を細胞に届け、効力を発揮させることは難しい作業です。「FOX Three分子誘導細胞標的化システム」はこの課題に立ち向かい、ついにこれを克服しました。1960年代のSF映画とは異なり、このデザイナーペプチドは、高度に標的化した方法で作用し、分子医学から「当てずっぽう」を排除しています。

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FOX Three MGSはがん細胞内の標的に直接薬物を送達するために使われており、科学者による新たな治療法の開発を後押ししています。そして、新型コロナウイルスのような新たな病気が出現し、細胞内で人類に真っ向から立ち向かってくるとき、FOX Three MGSが実現する”高度に標的化されたメカニズム”がワクチン送達を成功させる鍵となるでしょう。

参考文献

SRI International, SRI International Announces Drug Research Collaboration with Ionis Pharmaceuticals: https://www.prnewswire.com/news-releases/sri-international-announces-drug-research-collaboration-with-ionis-pharmaceuticals-300678330.html

Fantastic Voyage: https://www.imdb.com/title/tt0060397/

Eichman, Chad., Large Molecules vs. Small Molecules: https://phenomenex.blob.core.windows.net/documents/73dc2ce1-822a-4153-babb-19dce099d08b.pdf

Yang NJ, Hinner MJ. Getting across the cell membrane: an overview for small molecules, peptides, and proteins. Methods Mol Biol. 2015;1266:29–53. doi:10.1007/978–1–4939–2272–7_3

Brown, K., et.al., Patent Application PCT/US20 18/04 1403, MOLECULAR GUIDE SYSTEM PEPTIDES AND USES THEREOF, publication date 17 January 2019: https://patentimages.storage.googleapis.com/e4/84/5a/663bf7a492bdab/WO2019014190A1.pdf


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