既知の素材よりも優れた方法で大気中の二酸化炭素の除去が可能で、炭素回収コストを下げる可能性を秘めた新しい吸着剤
化石燃料を燃焼させることによって、非常に多い量の二酸化炭素が大気中に排出されることが社会的に大きな問題であることは、多くの人が認めるところです。また、化石燃料への依存を減らす取り組みに関する議論が政策界隈でも熱くなる一方で、先見の明のある科学者は、声こそあげてはいませんがそもそも二酸化炭素を空気中に排出するのを防ぐこと、あるいは既に空中に放出された二酸化炭素を回収することに目を向けています。
このコンセプトは二酸化炭素回収として知られており、SRIが現在開発している新しい素材などが近年注目を集めています。
SRIのリサーチサイエンティストで長年二酸化炭素回収の研究に携わっている化学関連エンジニアのJonathan Bachmanは次のように述べています。「私たちは、軽量のエアロゲルという素材を開発しました。これは周辺の大気から二酸化炭素を除去するスポンジのような作用があります。」
素材の大きな違い
エアロゲルの物質の状態は「固体」として分類されますが、これは超軽量の多孔性ポリマーの一種であり、吸着・ろ過という作用があることから、二酸化炭素回収に活用できる大きな可能性を秘めています。Bachmanのアプローチは、アミンの反応とルイス酸・塩基を基にしており、アミンはルイス塩基、二酸化炭素はルイス酸となり、相反するものは引き合うという原理を利用しています。
軽量でコスト効率に優れた多孔質素材と酸・塩基の化学を組み合わせることで、気孔を通って移動する空気から二酸化炭素を除去するスポンジのような素材、つまり二酸化炭素のフィルターができるのです。
Bachmanは「エアロゲルポリマーは質量あたりのアミン含有量が非常に多いことから、二酸化炭素の吸着量もかなり大きいのです。」と述べています。
計算してみるとすぐにわかります。鍵となる指標は二酸化炭素除去量1トンあたりの費用、つまり、全体的な回収コストです。このエアロゲルのような効率の高い吸着剤であれば、吸着剤自体の量が少なくてすむので、生産に携わる関係者は二酸化炭素除去装置の規模を縮小することができますし、二酸化炭素除去に必要なエネルギーも削減することができます。
「投資コストが減ります。」とBachmanは述べており、二酸化炭素に関する問題の根本的な解決策として、二酸化炭素回収を検討することが費用面でも視野に入ってくるのだと語りました。Bachmanの見積りでは、二酸化炭素1トンあたり100米ドル未満で回収できるとしています。
有望な用途
Bachmanをはじめとするこの分野の研究者たちは、この技術について、3つの可能性を考えています。1つ目は、ポイントソースキャプチャ(PSC: Point-Source Capture)と呼ばれるものであり、これは化石燃料を燃焼する発電所や工場など二酸化炭素の発生源となる施設に、二酸化炭素が大気中に放出される前の段階でエアロゲルのフィルターを取り付けます。
2つ目のアプローチは、巨大なエアロゲルをベースにした直接空気回収技術(DAC: Direct Air Capture)のプラントを作って空気を吸い上げ、何十億トンもの二酸化炭素を除去して気候変動の緩和を図る方法です。エアロゲルのスポンジに吸収された二酸化炭素は液化して地中の空洞に注入し、徐々に鉱物へと固形化され、永久的に貯蔵されます。
Bachmanによると、3つ目はまだほとんど検討されていませんが、実は人類にとって最も直接的かつ即時に効果がある可能性を秘めている選択肢だということです。Bachmanは飛行機や宇宙船、医療分野、生命維持の現場のような、二酸化炭素の濃度が高くなることで不快感を引き起こしたり、命の危険が及ぶような閉鎖環境で空気中の二酸化炭素を浄化するフィルターのようなものを考えています。
次の一歩
現在Bachmanと研究チームは、このエアロゲルを大気中の二酸化炭素を数十億トン規模で削減できるほど大量に生産する方法を開発しています。これには何千トンものエアロゲルが必要になりますが、供給できる体制は今のところ整っていません。Bachmanは懸念を示しつつも、未来は視野に入ってきており、今までになく近づいていると述べています。
「私たちは今、かなり重要な段階に差し掛かっており、この素材が大規模プロジェクトに採用されたり、試験的に実施できるようにしたりするなどの活動を行っています。私たちはこの素材を採用してもらえるように、考えられる限りの努力と協力をしていくつもりです。」とBachmanは述べています。