SRIが開発を手掛けた膵臓癌の治療薬、米国FDAの希少疾病用医薬品に指定される

SRIの分子誘導細胞標的化システム(MGS)を活用して免疫組織化学染色した膵管腺癌の腫瘍

FDAに指定されたことで、SRIのTALL®免疫療法の臨床開発が加速され、新しい治療法がより早くより手頃な価格で上市される


SRIの標的抗原負荷リポソーム(TALL:Targeted Antigen Loaded Liposomes)はチェックポイント阻害剤のような免疫療法の効果をさらに高める治療法ですが、このTALLが米国食品医薬品局(FDA: U.S. Federal Drug Administration)から膵管腺癌(PDAC:Pancreatic Ductal Adenocarcinoma)に対する希少疾病用医薬品指定(ODD:Orphan Drug Designation)を取得しました。

この結果、今後SRIと戦略的パートナーとなる組織は、認められた臨床試験に関する税控除を受けられるほか、とりわけ医薬品承認後は7年間の市場独占権を得られる可能性があるなどの恩恵を享受することができます。

SRIのバイオサイエンス部門のプレジデントであるKathlynn Brownは、「FDAから希少疾病用医薬品の指定を受けたことは、SRIのTALLバイオ治療薬が膵臓癌に対して実証した効果には注目に値する価値があるということです。これは画期的な一歩であり、患者とそのご家族に希望をもたらすよう、健康と精密医療のソリューションを開拓するSRIの真摯な取り組みをさらに後押しするものです」

抵抗性の高いがんを治療する

膵臓癌は早期発見が困難で、主要なあらゆるがんの中で最も死亡率が高く、進行癌の5年後の相対生存率はわずか3%です。膵臓の腫瘍は化学療法や放射線治療に対して非常に抵抗性が高く、治療の選択肢が限られています。SRIのTALLは、このような膵臓癌の困難な特性や課題を克服する可能性を秘めている新しい免疫療法であり、より多くの患者に恩恵をもたらします。

FDAのODDプログラムの元責任者であり、現在はOnly Orphans Cote社のCEOであるTimothy Cote博士は次のように述べています。「SRIがこの重要なステップに進めたことは祝福に値します。SRIのこの分野における科学的な力量は高いですし、この指定は本物の希少疾病用医薬品であるとFDAが認めたものです。精密医療(プレシジョンメディシン)領域においてSRIに期待される役割とは、業界標準を設定することであり、この治療法を必要としている人々に人生を変えるようなソリューションを提供することです」

「TALLで重要なのは、冷えた腫瘍をあたためて、薬剤がより効果を発揮するようにすることです」―Kathlynn Brown

希少疾病用医薬品(orphan drug)とは、希少疾病に使用することを目的とした医薬品です。米国では7,000種類を超える希少疾病が特定されており、米国人の10人に1人が罹患していると推定されています。その半数は子どもです。しかし、このような疾病の少なくとも95%には、FDAが承認した治療法がありません。患者のアンメットニーズに取り組む組織を支援するため、米国連邦政府は1983年にOrphan Drug 法を成立させました。この法律の重要な点は、組織が申請をすると、特定の治療法について希少疾病用医薬品指定(ODD)を受けられることです。

「これにより、臨床医薬品に対するFDAの最終承認を見据えた上市プロセスが大幅に簡素化されます。臨床試験の税額控除や上市の迅速化など、この指定によって可能になる大幅なコストの削減やその他のメリットを戦略的パートナーに提供し、存分に活用して協力していけることを私たちは楽しみにしています」とBrownは述べています。

がん細胞を偽装し免疫療法を誘引する

TALLは、免疫機能をだまして腫瘍細胞を病原体に感染した細胞として認識させる設計となっています。TALLは基本的にがん細胞を麻疹にかかったように見せかけ、免疫力のリコールとして知られる生物学的現象を利用して、人間の免疫機能がすでに戦い方を知っている侵入物を見つけ出して排除する(殺す)よう仕向けます。

SRIが開発したTALLは、SRIの新しいプラットフォームであるFOX Threeを利用しています。このFOX Threeプラットフォームは、医薬品開発におけるもう一つの重要課題を解決するため開発されました。それは、これまでは細胞内への送達が困難であったため、細胞内の標的にバイオ治療化合物の薬剤を届けることができないという問題です。このFOX Threeは、独自のペプチド送達剤を同定し、標的の細胞種に到達してその細胞に治療効果のあるペイロードを特異的に送達する分子誘導細胞標的化システム(MGS:Molecular Guidance System)という特許プロセスを採用しています。

免疫療法として応用するには、麻疹ウイルス由来の合成ペプチドをリポソームと呼ばれる中性のステルス粒子に充填します。そして、腫瘍を標的とするFOX Three MGSをリポソームの表面に付着させます。このMGSが腫瘍細胞に到達すると、リポソームは腫瘍細胞内に運び込まれるのです。

そして、この麻疹由来のペプチドが病変細胞内で放出され、最終的に病変細胞の表面に発現することで、免疫機能にフラグを立てます。麻疹に「感染」したように見える腫瘍細胞は、メモリーT細胞がこれを標的として死滅させ、患者自身の免疫機能が腫瘍を排除します。チェックポイント阻害剤との併用療法としてTALLを投与したデータでは、チェックポイント阻害剤を用いた従来の治療に抵抗力のある腫瘍に対する縮小効果が高まりました。TALLの本質は、冷えた腫瘍をあたためて、薬剤がより効果を発揮するようにすることです。

「FDAのODDプログラムとこの治療法の潜在力は、この恐ろしい病と闘う多くのがん患者に希望をもたらすものです。開発のプロセスを加速することにより、より多くの患者が治療を受けられる日が来ることを心待ちにしています」とBrownは締めくくりました。

6月3日から6日にかけて、カリフォルニア州サンディエゴで開催されたバイオテクノロジー関連展示会「2024Bio International Convention」にSRIも出展しました。お問い合わせは、こちらまでご連絡ください。


Read more from SRI