パーソナライズされ、永久的に利用可能な認知アシスタントを開発した研究プロジェクト
「75年間のイノベーション」シリーズでは、SRIが設立された1946年から現在に至るまでの数々の画期的なイノベーションを取り上げます。SRIの英語ブログでは、2021年11月の75周年を迎える日まで、毎週1つずつイノベーションに関する記事をリリースしています。この日本語ブログでは、その中からいくつかを日本語にてご紹介します。
小さなサポートが大いに役立つ:CALOプロジェクトからSiriなどのスマートデジタルアシスタントが生まれるまで
「教師データなしで学習する能力」は、今や情報科学の重要な目標のひとつとなっています。私たちと効果的に協力し生活を助けるため、コンピュータは人間の行動を理解し、人間とやり取りできるようになる必要があります。コンピュータが学習するには「人工知能(AI)」を使用しなければならず、意思決定を行うには「思考力」を用いなければなりません。
「AIを使用して日常生活で人間にサービスをするコンピューター」というアイデアから、「デジタルアシスタント」開発への道が開かれました。その実現を目指して始まったプロジェクトは、CALO/ Cognitive Assistant that Learns and Organizes(学習・整理する認知アシスタント)と呼ばれました。
CALOとは、コラボレーション、スマートテクノロジー、そしてコンピューターと対話するための新たな方法をめぐる歴史なのです。
CALOという名のPAL:相棒
人間と自然にやり取りする機器を開発することは、コンピュータの出現以来人類にとっての目標でした。 書物などから歴史を振り返れば、そのようなデジタルアシスタントの例は無数に見つかります。多くはロボットの形状であり、中には『2001年宇宙の旅』の「HAL9000」のように人間に対して悪意を持つような例ものもあります。
CALOプロジェクトは、よりポジティブな認知デジタルエージェントというビジョンを実現しようとするものでした。
CALOは、SRI Internationalの主導する大規模な協働プロジェクトであった、DARPAのPAL(Personal Assistant that Learns)フレームワークから誕生しました。このプログラムにはカーネギーメロン大学、マサチューセッツ大学、Institute for Human and Machine Cognition(人間と機械の認知研究所)など、多くの機関が参加しました。PALは人間と協働する認知システムを使用するためのフレームワーク構築に焦点を当て、経験から学び、人間のオペレーターが出すコマンドに対して論理性と思考力を活用しました。
初期のPALプログラムは、軍事関係者と緊密に連携したものでした。米陸軍のCommand Post of the Future(CPOF)はPALプログラムを使用してイノベーションを続け、ユーザーと音声ベースの対話をして、軍事計画の立案をサポートしています。
PALプログラムからCALOが誕生したのです。
やあCALO、私のために会議室を整理してくれる?
CALOはSRI Internationalが主導する共同研究の取り組みであり、2003年から5年間をかけて、22の主要研究機関から300名以上の研究者が参加しました。CALOチームの重要な設計目標のひとつが、「従来自動化が困難であった、相互関連する広範な意思決定タスクを処理する」システムの構築でした。
つまり、利用することによって改善するように自律学習を促進させたのです。これは今でも、現代のデジタルアシスタントが保持する機能です。
認知機能を備えたデジタルアシスタントを構築するため、CALOは従来のコンポーネントと、AIのエコシステムとを統合させる必要がありました。技術の進歩に向けたこのようなエコシステムアプローチはSRIが強みを発揮するところです、なぜなら社内の複数の専門分野を活用できるからです。CALOはいくつかの相互運用可能なコンポーネントから成り、そのベースラインには以下が含まれていました。
• オントロジー管理
• CALOのオントロジーを拡張するために「概念学習」で使用される機械学習アルゴリズム
• CALOと連動しオントロジー管理を提供するオープンソースのオフィスデスクトップであるIRIS
CALO向けに準備されたエコシステムを使用して、CALOは以下を行うことができました。
• 情報整理および管理
• タスク監視および管理
• 時間内のスケジュール作成および整理
• 情報製品の作成
• リソース取得および割り当て
• 対話の観察および仲介
CALOからSiriへ
CALOプロジェクトから生まれたもののひとつに、会議アシスタントのCALO-MA(CALO会議アシスタントシステム)があります。CALO-MAはビジネス会議をデジタル面で支援するだけでなく、自然言語や音声処理技術の評価にも活用できました。複数の当事者が固有の言語を使用するという会議体質であったため、システム開発は厳しいものとなりました。CALO-MAの構成要素には、「隠れマルコフモデル(HMM)」に基づく音声認識ソフトウェアが含まれています。これは別途SRIが考案したDECIPHERプロジェクトでも使用されています。
CALOプロジェクトで実施された研究に基づくその他の製品には、以下のようなものがあります。
• Trapit — ニュースアグリゲーションサービス
• Tempo AI — AI対応のiOS向けカレンダー
• Desti — AI対応の旅行ガイドアプリ
CALOの派生としておそらく最も有名なのは、スマートフォンベースのデジタルアシスタントであるSiriでしょう。現在はApple iOSの一部ですが、これももともとSRI Internationalが開発したものです。
デジタルアシスタントの世界は、コンピュータに指令を行わせるだけではなく、その他の事柄にも考慮する必要があります。SRIはCALOの開発中、デジタル世界が生み出した面倒な問題に特に注意を払いました。つまり、データのプライバシーとセキュリティです。CALOの開発にあたり、プライバシーとセキュリティがデザインレベルで考慮され初期設定の状態で保障されている、誰もが信頼できるシステムを構築する必要がありました。この配慮のおかげで、CALOは今後のスマートテクノロジーの多くを先導することになったのです。
出典:
SRI International、CALOプロジェクト: http://www.ai.sri.com/project/CALO
サピエンス、ホモ・ハビリス: https://www.sapiens.org/evolution/homo-sapiens-and-tool-making/
Learning by Demonstration to Support Military Planning and Decision Making. — Scientific Figure on ResearchGate(軍事計画と意思決定を支援するためのデモによる学習—ResearchGateの科学者):https://www.researchgate.net/figure/PAL-CPOF-Architecture_fig2_221016446
SRIのPALについて:https://pal.sri.com/
プレスリリース、SRI International is Awarded DARPA Contract to Develop New Cognitive Computing Software(新たなコグニティブコンピューティングソフトウェアを開発するためのDARPA契約をSRI Internationalが受注), 2003年:https://www.businesswire.com/news/home/20030716005586/en/SRI-International-Awarded-DARPA-Contract-Develop-New
CALOプロジェクトのチーフアーキテクト、Adam Cheyerのインタビュー:https://medium.com/swlh/the-story-behind-siri-fbeb109938b0
CALO会議アシスタントシステム:https://www.sri.com/wp-content/uploads/pdf/the_calo_meeting_assistant_system.pdf
音声認識 〜大規模な商業利用を実現する自然な自動音声認識技術〜 (日本語ブログ) :https://www.sri.com/ja/press/story/SRIの75年間のイノベーションについて:音声認識
Siri 〜Siriの誕生秘話―如何にしてコンピューターに声をもたらしたのか〜 (日本語ブログ):https://www.sri.com/ja/press/story/SRIの75年間のイノベーションについて:Siri