SRIの75年間のイノベーションについて:銀行業務の自動化 


ERMA 個人の当座預金に関する業務を「自動化」するシステム


「75年間のイノベーション」シリーズでは、SRIが設立された1946年から現在に至るまでの数々の画期的なイノベーションを取り上げます。SRIの英語ブログでは、2021年11月の75周年を迎える日まで、毎週1つずつイノベーションに関する記事をリリースしています。この日本語ブログでは、その中からいくつかを日本語にてご紹介します。

銀行業務におけるベビーブーム世代:「バンク・オブ・アメリカ」が銀行として初の自動化を達成するにあたり、SRIがどのように寄与したか

銀行業には長い歴史があり、世界初の銀行が誕生したのは2000年前のアッシリアだといわれています。この2000年の間、銀行業は常に進化を続けていますが、特に20世紀の進歩は目覚ましいものでした。ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA: Robotic Process Automation)などのテクノロジーが近代の銀行業務に変化をもたらしており、自動化テクノロジーを早期に採用したことが、21世紀のシームレスなデジタルバンキングの基礎を築くことになりました。銀行業務自動化の第一の波は、1950年代にSRIが小切手を処理する初の統合システムを開発したときにやってきました。

1950年代に生まれたということは、この近代的な自動銀行業務システムは、まさにベビーブーム世代の一員といえます。SRIのイノベーションがいかに今日の銀行業務の礎を築いたかをご紹介します。

SRIとバンク・オブ・アメリカが個人小切手関連業務を自動化

1950年代のコンピューターは、大きめの部屋と同じくらいの大きさでしたが、この大きなテクノロジー機器を取り入れ、銀行業務で実用化するというアイデアが現実のものとなりつつありました。第二次世界大戦後の1940年代後半から1950年代にかけては、経済が著しい成長を遂げ、多くのアメリカ人の経済力が向上した時期です。個人向け金融取引の急増に対応するため、銀行業務も成長し発展する必要がありました。これと同時に、銀行の顧客は銀行とその提供サービスに対してより多くを求めるようになっており、この需要が銀行業務のイノベーションを牽引するものとなりました。

1950年代の好景気は当座預金口座の急増につながり、小切手を扱うバックオフィス業務の負担が非常に大きくなっていました。当時は、小切手に問題がないかを担当者が手作業で一枚ずつ確認・処理しており、書面での取引記録も残していました。各銀行のバックオフィスでは、数人がこの業務を担うためだけに働いていたのです。当座預金サービスへの需要の増加に、経済成長や煩わしい手作業での処理が加わるにつれ、この時間のかかる手作業でのバックオフィス業務を改善する必要がありました。この改善は、「自動化」に最適な候補でした。

当時世界最大の銀行であったバンク・オブ・アメリカは、この手作業での小切手処理に伴う業務量過多を解消するため、SRI Internationalに支援を求めました。そして1955年に、SRIとバンク・オブ・アメリカは、電子記録機および会計システムである「ERMA」を発表しました。ERMAは小切手処理を自動化するにあたり、多くの要素を統合・調整しており、この中にはSRIのもう一つのイノベーション、磁気インキ文字読取装置(MICR: Magnetic Ink Character Reading)も含まれています。

自動化の巨大なモンスターとなったERMA

「自動化」は銀行の業務に革命をもたらし、ERMAはこのプロセスの道しるべとなるものでした。1955年のSRIニュースレター「産業のための研究(Research for Industry)」では、戦時中の「電子頭脳」に関する研究を基に開発した新しい「電子簿記係」と、ERMAを評しています。ERMAは、磁気記録と印刷されたコードの機械による読み取りや、紙類の取扱いメカニズム、そして高速印刷の各分野におけるイノベーションを反映した構成要素から成っていました。幸いに、SRIは既にこの分野すべてにおいて経験を積んでいました。しかし、ここで鍵となるハードルの1つとなったのは、小切手処理に必要なこの種々の要素をシームレスな自動化プロセスのフローに統合することでした。

このような多くの要素で構成されるERMAシステムの成功は、インクで印刷したコードや文字の機械読み取りの開発にかかっていました。これには、自動化プロセスの中で文字の正確な読み取りを可能にする「磁気インク」の開発が求められました。1955年のSRIニュースレターでは、この巨大なERMAシステムについて次のように述べています。

「ERMAの配線は100万フィート超(約30万4,800メートル)におよび、ダイオードは3万4,000個以上、真空管は8,000本以上使用しており、重さは25トンほどです。」

ERMAのシームレスなフローは、小切手の処理時間を80%削減することができるでしょう。

ERMAと「機械読み取りが可能な小切手」という自動化の仕組み

ERMAには相互に接続されたパーツがいくつかあり、その中には小切手のデータ入力に使うキーボードが5つあります。こうしたデバイスキーは、口座番号、小切手の金額およびその他の関連データを反映するよう設計されていました。4つの回路でオンとオフの組み合わせをしっかりと発生させ、0から9までの全数字といくつかの記号を認識することで、計算ユニットがキー押下をコードに変換します。

一時情報ファイルを記録していたのは、小さな石油ドラム缶くらいの大きさの磁気ドラム2個でした。このドラムはそれぞれ酸化鉄の微細樹脂でコーティングされており、磁場でその極性をコントロールしていました。各ドラムは300ものパラレルトラックに細分化されており、各トラックは長さ0.01インチ(0.25ミリメートル)のセクションに分割されていました。つまり、ERMAのバイナリシステム内では150万個もの磁気セルが、ビットにエンコードされた情報を記録していたのです。

バンク・オブ・アメリカのための研究の一環としてSRIが開発した磁気インクは、小切手の機械読み取り可能な部分に使用され、ERMAの自動小切手読み取りを可能にしました。各小切手の裏にはこの磁気インクによる印刷が施されました。MICRラインとして知られるこの磁気インクは、小切手の内容を判別するのに用いられます。MICRラインには、小切手の種類、銀行コード、銀行口座番号、小切手番号、金額などの情報が含まれています。磁気インクで印刷された文字は、1秒当たり1,000文字をERMAで読み取ることができました。

ERMAの導入当初は1日当たり3万2,000件を処理することができましたが、1959年9月14日の運用開始時には1日当たり5万件の処理能力になっていました。そして、ERMAは1970年代にかけて銀行業務の自動化に活用されていきました。

バンク・オブ・アメリカとSRIは銀行業務の「自動化」というパズルに取り組み、「ERMA」と「磁気インク」という形でこれを解決に導きました。銀行業務の自動化という長い道のりにおける道しるべは、最終的に高度にデジタル化・自動化された21世紀の銀行システムへとつながりました。

参考資料:

1955 SRI newsletter, Research for Industry: http://ed-thelen.org/comp-hist/SRI_Newsletter_Oct55-1.pdf

Fischer and McKenney: The Development of the ERMA Banking System: Lessons from History: http://ed-thelen.org/comp-hist/Dev-of-ERMA–LessonsFromHistory.pdf


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