現代のインターネットを誕生させたコラボレーションプロジェクト
「75年間のイノベーション」シリーズでは、SRIが設立された1946年から現在に至るまでの数々の画期的なイノベーションを取り上げます。SRIの英語ブログでは、2021年11月の75周年を迎える日まで、毎週1つずつイノベーションに関する記事をリリースしています。この日本語ブログでは、その中からいくつかを日本語にてご紹介します。
ARPANETからインターネットへ:コンピューティングの小さな一歩が接続性の大きな飛躍に
1969年は本当に素晴らしい年でした。ニール・アームストロングとバズ・オルドリンが人類初の月面着陸に成功をして月面を歩き、ビートルズがアップルレコードの屋上で最後のライブを開催しました。 そして、インターネットの先駆けとなる「ARPANET」が世界にリリースされたのです。
ある意味インターネット上でインターネットについて語ることは、今やインターネットはあらゆるところに存在しているので、まるで無限の合わせ鏡を見るかのようです。インターネットは、ソーシャルメディア、キャッシュレス決済、新型コロナウイルス流行中の(さらに、コロナ後の)リモートワークなど、世界を変える非常に多くの物事の先駆けでした。
後にインターネットは成長し、実に大きくなりましたが、その最初の産声が響いたのは1960年代の極めて小さなプロジェクトでした。これは、当時の世界が現代の「インターネット」に一歩ずつ近づくにあたり、SRI Internationalがどのように関わっていたかについての物語です…
情報のスーパーハイウェイへの道すじ
地理的に離れたコンピューター間で情報をやり取りできるインターネットは、非常に革新的なものです。21世紀の今では、インターネットはほぼ当たり前に使うもので、多くの人々は当然と思っている現代の常識です。しかし、1960年代に全く別々のコンピューター間で通信ができるという概念は、革命以外の何ものでもありませんでした。
当時、コンピューターはローカルエリアネットワーク(LAN: Local Area Network)を利用して接続されていました。一方向の情報フローによるコンピューター間での直接接続だったので、コンピューティング能力は大きく制限されました。
そこで、地理的に離れた別々の地域でも繋がるネットワークシステムを構築するために考案されたのが「ARPANET」です。コネクテッドコンピューティングをビジョンとして、データが「パケット」に分割されるパケット交換ネットワークに基づいています。各パケットは利用可能なルートを使用して、一連のノードを介して指定された場所に移動します。パケット交換自体はインターフェイスメッセージプロセッサ(IMP: Interface Message Processors)として知られていましたが、SRI Internationalが2つのIMPのうち最初のIMPを確立させ、UCLAがもう一方をホストしました。
パケット交換はインターネットの基本的原理となるものです。
インターネットを最初に目撃した驚きの声
現在私たちが親しんでいるインターネットは、相互に関連して円滑にするコンポーネントと言語、プロトコルが絡み合ったものです。しかし、今日インターネットとして認識されている超情報化された自由な世界が誕生するまでには、色々な出来事が起こったのは言うまでもありません。まず、接続されたコンピュータ間での通信の背景となる考え方は、1960年代に徐々に生み出されました。そして、今はDARPA(Defense Advanced Research Projects Agency: 国防高等研究計画局)として知られる当時のARPAが初期のプロジェクトの背後に関わり、「地理的に離れて分散されていて、かつネットワーク化されたコンピューター」というコンセプトが採用されました。DARPAの資金提供とコミュニティの意見により「ARPANET」の設計が進められ、ARPANETを構築するための計画が発表されました。
この計画は、ARPANETが持つコンピューター接続の能力を実証するため、2つのIMPまたは「ノード」を見つけるというものでした。初期のコンセプトの実証のために、UCLAは第1のノードを、そしてSRIは第2のノードを提供しました。
この第2の「ノード」と関連するサポートの背後に存在したのがSRI Internationalの2名の重要人物でした。Elizabeth Feinler(元化学者)は1960年代に、SRIの情報調査局の責任者を務めていました。彼女はARPANETのネットワークインフォメーションセンター(NIC: Network Information Center)で初期の責任者を務め、ホスト名のテーブルを提供し、マッピングとRFCのディレクトリを促進しました(Request for Comments-RFCについては後で詳述)。そしてその後、彼女はSRIの拡張リサーチセンター(ARC: Augmentation Research Center)を統括するDouglas Engelbartからも採用されました。EngelbartはARPANETの第2のノードを提供した人物です。ヒューマンコンピューターインタラクション(HCI: human-computer-interaction)の理解を促進したことで知られる同氏は、SRIの別の素晴らしい発明「コンピューターマウス」にも関わっています。ARPANETは、双方向型コンピューターシステムであるNLS(oNLine System)に関する同氏の取り組みに完全にフィットしていました。
1969年10月の歴史的なデモンストレーションにおいて、世界は初めて「接続されたコンピューター」を目撃することになりました。そして後にこれが、現在私たちが日常的に親しんでいる超情報化された世界へと発展します。最初の試みはログインでしたが、システムはクラッシュしました。しかしながら注目すべき重要な点は、UCLAの学生がARPANETを使ってスタンフォード研究所のホストコンピュータにメッセージを送信したことです。送信されたメッセージは「LOGIN」でしたが、システムがクラッシュをする前に”L”と”O”だけは送信されていたのです。
システムはクラッシュしましたが、これは「情報スーパーハイウェイ: information superhighway」(またの名をインターネット)に向かう道への最初の一歩となりました。
それでは、その歴史についてもう少し紹介しましょう…
ARPANETの歴史の概要について
1969年11月21日、UCLA~SRI間に強固なARPANETリンクが確立されました。 そして、1969年12月5日までにカリフォルニア大学サンタバーバラ校とユタ大学が加わって、4ノードのネットワークが完成します。各ノードは、ARPANETの機能をテストするために異なるオペレーティングシステムを保有していて、SRIは「SDS-90コンピューター」を使用しました(NLSのデモンストレーションにて使用されたものと同一の機器)。
1974年、ARPANETの商業用バージョンである「Telenet」が誕生しました。
1975年に国防情報システム局がARPANETの管理を引き継ぎ、1983年までにARPANETは軍事ネットワーク(MILNET)、国防データネットワーク、NSFNet(科学・学術用コンピューターに使用)の一部となりました。
現代のインターネットが確立するまで、ARPANETの進化過程において重要な一歩となったのは、1982年のTCP/IPプロトコルの開発でした。これは現在もインターネットの標準プロトコルとなっています。
初期のノード間の通信から数々の発明を通じて、今日では誰もが知っていて親しまれているインターネットが形成されました。発明の中には、情報の「ワールドワイドウェブ: World Wide Web」を構築するためのウェブページのプログラミング言語を提供する、Tim Berners-Leeのハイパーテキストマークアップ言語(HTML: Hypertext Markup Language)も含まれています。
優れた発明が突然の1つの思いつきから生まれることは、(あるとしても)ごく稀です。人類が科学技術で大きな進歩を遂げるとき、数年、何十年、さらには何世紀にわたる実験と知識に基づいた飛躍的前進が実現されています。インターネットは、まさにそのような発明です。Douglas Engelbart、Elizabeth Feinler、そしてSRIの広範なチームが参加したARPANETに関する取り組みは、現在私たちの誰もが大きく依存している現代のインターネットの開発に寄与しました。
これらの科学者やエンジニアが経験したプロセスは、Request for Comments(RFC)と称する一連のドキュメントに記録されています。歴史を記した記録を読むと心を打たれます。1971年4月30日付けのRFCの記述は以下のようなものです。
「コンピューター(そして、つまりコンピューターネットワーク)の将来の使用に関する予測は、『1975年には主にデータを処理している』と指摘している。したがって、コンピューターネットワーク上のデータ共有の問題や、何らかの共通言語でリモートノードからデータにアクセスする問題は極めて重要である。」
出典:
Douglas Engelbert, 1969年: https://www.dougengelbart.org/content/view/160/93/#Watch
DARPA, Arpanet:https://www.darpa.mil/about-us/timeline/arpanet
インターネットの殿堂、Elizabeth Feinler: https://www.internethalloffame.org/official-biography-elizabeth-feinler
The Dish、75 Years of Innovation:コンピュータマウス: https://medium.com/dish/75-years-of-innovation-the-computer-mouse-fef5161ba45d
NLS: https://www.dougengelbart.org/content/view/155/87/
インターネットRFC/STD/FYI/BCP アーカイブ: http://www.faqs.org/rfcs/