SRIの75年間のイノベーションについて:CCD放送用カメラ


放送業界を新時代へ導いた技術


「75年間のイノベーション」シリーズでは、SRIが設立された1946年から現在に至るまでの数々の画期的なイノベーションを取り上げます。SRIの英語ブログでは、2021年11月の75周年を迎える日まで、毎週1つずつイノベーションに関する記事をリリースしています。この日本語ブログでは、その中からいくつかを日本語にてご紹介します。

「はい、笑って!CCDカメラに写っているよ!」

「RCAのソリッドステートCCDイメージャーは、光導電管が持つ最も厄介な欠点の多くを解消してくれます」 — RCA Broadcast News 第173号(1983年)

テレビは、非常に人気のあるメディアです。2019年、米国で成人がテレビを視聴する時間は1日平均3時間35分でした。テレビ番組の視聴者は明瞭かつ鮮明な画像を求めているので、放送局は屋内外を問わず、セット内や制御されていない場所でも撮影をしなければなりません。

放送用カメラは融通が利き、軽量で、頑丈であることが必要です。明るい場所、暗い場所など、考えられるあらゆる条件下で、優れた画像を提供する機能がカメラに求められます。

そのような中で登場したのが「ソリッドステートCCD (solid-state CCD)」、すなわち電荷結合素子カメラ (Charge Coupled Device camera: CCDイメージセンサカメラ)でした。このカメラはRCAのDavid Sarnoff リサーチセンター(現在はSRI Internationalの一部)により開発され、放送用カメラマンたちの人生を長きにわたって変えることになります。

獣のような巨大カメラを手なずけるCCD

かつて、放送用カメラを扱うスタッフには体力が必要でした。放送用カメラ(テレビカメラ)はまるで大きな獣のようだったのです。かさばって重い部品をたくさん備えている必要があり、熱を放出しました。20世紀半ばのテレビカメラのブラウン管は使用中に熱を持っていたため、複数のスタジオカメラによる作業はあまり快適なものではありません。古いタイプのブラウン管テレビ用カメラが活躍できる期間が、そう長くないことは明らかでした。

1960年代、RCAのDavid Sarnoff リサーチセンターは「TK-42」と呼ばれる4管テレビカメラを開発しました。このカメラはカラーカメラ設計の新コンセプトとして、画質を向上させ、放送用カメラの多くの問題を解消すべく開発されました。TK-42から得られた画像は高品質かつ鮮明で、熱放散が非常に少なく750Wの低電力で動作するため、小さなスタジオ内での作業が快適になりました。

しかしながら、TK-42にも限界はありました。

1964年に英国放送協会(BBC)が行った評価によると、4管式テレビカメラの感度は「期待外れ」であり、色の再現には「改善の余地」が残るとのことでした。それでもBBCは、1964年に4管式の使用を推奨しました。結局のところ、当時はほとんど他に選択肢がなかったのです。

RCAは感度、明瞭さ、携帯性、使いやすさをさらに強化し、放送用カメラを次世代に導こうと取り組みを始めます。テレビは人気があるだけでなく、娯楽とコミュニケーションの重要な一形態となりつつありました。今こそイノベーションを起こす時なのです。素晴らしいテレビをつくるための、さらなる優れた方法が必要でした。テレビを新時代に押し進めるには、融通が利き、軽量で、頑丈なテレビカメラが必要だったのです。

そして時が流れます。技術開発の基本理念がそうであるように、技術のさらなる進歩を実現するため、アップデート、イノベーション、そして「微調整」が行われます。RCAは放送用カメラ機能の改善を続けました。さらに改良が加えられ、たどり着いたのが電荷結合素子です。1983年、RCAはNABコンベンション(全米放送事業者協会)で独自のソリッドステートイメージャのデモを行いました。このデモはカンファレンスセンターから道を挟んだ向かいにあるホテルで、招待客限定にて行われました。この時点でカメラはまだ実験段階にありましたが、コンベンションでカメラを見る機会を得た1000人以上の人々は放送技術の飛躍的進歩に目を見張ります。それは、21世紀に私たちが慣れ親しんでいる、鮮明かつ明瞭であらゆる状況に対応するテレビ画像の端緒となるものでした。

ソリッドステート電荷結合素子(CCD)の仕組み

RCA ソリッドステートイメージャはCCDをベースとしています。ソリッドステート電荷結合素子(CCD)はシリコンウェハーを使用する光子検出器であり、ピクセルと呼ばれる多くの感光領域に分かれています。光がピクセルに当たると電子に変換されます。生成される電子の数は領域に入る光に正比例します。

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出典:RCA Broadcast News、第173号

CCDの構築を実現するにあたっては、いくつかの方法論が存在します。RCAが選んだのは「フレーム転送」アプローチでした。低出力で高感度を実現するためにこの方法が選択されました。また、光が移動する際に発生する後続スミア(画面上に発生する白カブリ)の問題も解決します。最終的に、明瞭かつ鮮明で、コントラストが高く、スミアのない画像を実現することができました。

フレーム転送CCDシステムはCCDを分割することで機能し、上部に画像領域、下部に保存領域があります。これにより、保存された電荷画像を少しずつ出力領域に転送できます。保存領域は光源から保護されています。画像は上部の画像領域に集中し、電子電荷はその後ストレージ領域に転送されます。この手法を「プログレッシブスキャン」読み出しといいます。

RCA初のソリッドステート商業用放送カメラであるCCD-1の製品パンフレットには、次のように書かれています;

「CCD-1は昼夜を問わず、どのような照明条件下でも、驚くほど素晴らしい画像を提供してくれます。」

ソリッドステートCCDは、放送業界に大きな変化をもたらすことが期待されました。ソリッドステートCCDをベースにしたカメラは、業界が求める感度の向上、不十分な明るさでも機能する能力、持ち運びやすさの向上を実現しました。番組プロデューサーたちは、より鮮明な画像が主流となる新時代に放送業界を進めることができました。

よりシャープな画像へ

CCDカメラはRCAのDavid Sarnoff リサーチセンターで誕生し、RCAが完全子会社としてSarnoff Corporationになった際にSRI Internationalの技術の一部となりました。ソリッドステートCCDの開発以来、この技術に基づくカメラが業界標準となっています。1985年、同社はその優れた技術成果に対してエミー賞を授与されました。

出典:

RCA Broadcast News第 173号:
https://www.americanradiohistory.com/ARCHIVE-RCA/RCA-Broadcast-News/RCA-173.pdf

Statistica 米国におけるメディア利用-テレビの視聴時間 2014年–2021年:
https://www.statista.com/statistics/186833/average-television-use-per-person-in-the-us-since-2002/

4管式カラーテレビカメラのBBCによる評価、1964年:
http://downloads.bbc.co.uk/rd/pubs/reports/1964-54.pdf

CCD-1製品パンフレット、TV Camera Museumのアーカイブ:
https://www.tvcameramuseum.org/pdfs/rca/ccd-1catalog.pdf

American Radio History、TK-42パンフレット:https://www.americanradiohistory.com/Archive-Catalogs/RCA/RCA-1966-Television-Cameras.pdf


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