超音波技術によって内部から生じる画像
「75年間のイノベーション」シリーズでは、SRIが設立された1946年から現在に至るまでの数々の画期的なイノベーションを取り上げます。SRIの英語ブログでは、2021年11月の75周年を迎える日まで、毎週1つずつイノベーションに関する記事をリリースしています。この日本語ブログでは、その中からいくつかを日本語にてご紹介します。
「21世紀に超音波は目で見る聴診器となった」――Scandinavian Journal of Trauma, Resuscitation and Emergency Medicine(外傷、蘇生、救急医療に関して:スカンジナビア・ジャーナル)より
画面に映る赤ちゃんとその心臓が規則的に脈打つのを見つめる瞬間は、妊娠期間中で最も夢のような感動的な瞬間のひとつです。これを可能にしたのが、超音波技術の医療への適用でした。
超音波は、非侵襲的に私たちの体の中を見るための手段として利用されています。医療分野での超音波の利用は、SRIインターナショナルが「反射透過撮像(Reflex Transmission Imaging:RTI)」という画期的な技術を発明したことで、一層効果を発揮するようになりました。超音波技術が幅広く医療診断ツールとして実用化されるには微粒子レベルの撮像技術が必要でしたが、RTIがそれを可能にしたのです。
今では、超音波は医療用画像を必要とする様々な場面で利用されています。そして私たちに生命の発達を見せてくれるだけでなく、時には命も救ってくれます。
それでは、超音波技術はどのように誕生したのでしょうか。そして、この技術が世界中の医療の現場で利用されるツールとなる過程で、SRIはどのような役割を果たしたのでしょうか。
音が画像になる仕組み
超音波技術は医療診断の方法に革命を起こしました。この技術は、侵襲的手法を一切使わずに体の中を観察し、診断に必要なデータを医師に提供します。体内の臓器などの画像を作成する手法は、暗い部屋の中で何かを見つけるために灯りをつけることと似ています。
超音波スキャンによって出力される画像を「ソノグラム」といいます。この画像は、トランスデューサ(変換器)というプローブ(探触子)が発する高周波音波を利用して作られます。トランスデューサは、患者の皮膚の上で使用されるのが一般的ですが、最適な画質を得るために体内(消化管内など)で使用される場合もあります。
トランスデューサには水晶振動子が使用されています。交流の電場をかけるとこの水晶が振動して高周波の音波が発生し、発生した高周波音波は体内に向けて送信されます。その音波が体内の軟部組織などに当たると、超音波エコーが返されます。エコーが戻ってくるとトランスデューサ内の水晶振動子が検知します。
体を構成する物質(水分、骨、軟部組織など)の違いによって、戻ってくる音波エコーも異なります。エコーが戻るために要する時間と、音速に基づいて画像が表示されます。つまり、トランスデューサに当たる音波によって、水晶振動子が解剖学的な位置と戻ってくるエコーの強度を反映した電流を発生させ、この電流が超音波装置に送られて2D画像が生成されます。
現在使われているトランスデューサでは水晶振動子が多数配列されており毎秒20回以上活性化されることから、画像に経時的変化(胎児の心臓の鼓動など)を映し出すことが可能です。
現在の超音波技術では、解剖学的診断と機能診断の両方を行うことができます;
• 解剖学的な超音波技術によって、体内の臓器やその他の組織などの画像を作成することができます。
• 機能面の超音波技術はRTIによって発展が促進された技術で、血流や組織の動きなどをマッピングするために使用されています。この技術によって、医師は体内の機能を可視化することができます。
かつての透過撮像では、体の両側の広範囲に対して音響結合が必要でした。それに対して、単一のトランスデューサ・プローブで同一検査範囲の超音波反射とエコーリターンの両方を単一のトランスデューサで発生させることを可能にしたのが、反射透過撮像(RTI)の技術でした。
超音波の歴史とSRIインターナショナル
この世界に存在する多くのものがそうであるように、超音波技術は「必要は発明の母」の産物でした。超音波検査の分野は、イタリアの生物学者スパランツァーニ(Spallanzani)が1794年に行ったコウモリの反響定位に関する研究によって、その存在が知られるようになりました。しかし、超音波が初めて医療に利用されたのは1942年のことでした。神経科医のカール・ドゥシク(Karl Dussik)が脳腫瘍を検知するために検査に超音波を使用したのです。1950~60年代には超音波スキャナーの改良や、医療(助産術などの分野)における超音波の役割を拡大する努力が続けられました。1958年には、イアン・ドナルド(Ian Donald)が民間のエンジニアリング企業の支援を受けて自動スキャナーを開発し、以前は「末期がん」という臨床診断だったものが単なる「卵巣嚢胞」に覆りました。1960年には、この超音波スキャナーによって初めて「前置胎盤」の分娩前診断が行われました。
1970~80年代になると超音波技術は大きく進歩しますが、診断の正確性が大幅に向上したのは、反射透過撮像(RTI)を使用するプロセスが整ってからでした。1984年にSRIインターナショナルのフィリップ・グリーン(Philip Green)とその同僚たちが、超音波技術の精度を高めることに成功しました。彼らはRTIを使って高解像度の撮像能力(例えば、動脈硬化性プラークとそれに関連する血流を表示することが可能)を実現しました。グリーンが発明したこの新しい技術は「反射透過撮像(Reflex Transmission Imaging)」と名付けられました。RTIは同一の検査範囲において個々のトランスデューサを使い、反射する超音波と透過する超音波の両方を発生させる技術です。
RTIは現在、多種多様な診断に活用されています。例えば、白色光のデジタル写真と組み合わせると、色素性病変の分類や皮膚の黒色腫の検知に利用することが可能です。
超音波技術は、非侵襲的な医療診断を必要とする非常に多くの人々のために、世界中で日々活用されています。世界保健機構(WHO)では、超音波、X線、または両者を組み合わせることによって、発展途上国における医療撮像の需要の2/3を満たすことができると考えています。
現在使われている高解像度の超音波技術は、SRIインターナショナルの開発チームの努力の賜物です。超音波検査の装置と、検査をする技師と医師によって下される診断がこれまでに多くの命を救い、より多くの命がこの世に無事誕生するのを見守ってきました。
出典:
ローレンス・M・ギルマン(Gillman, L.M.)、アンドリュー・W・カークパトリック(Kirkpatrick, A.W.)著「臨床用のポータブル超音波:21世紀の目で見る聴診器」Scand J Trauma Resusc Emerg Med、第20号、記事番号18(2012年)https://doi.org/10.1186/1757-7241-20-18
アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health)ウェブサイト、フィリップ・グリーン(Philip Green)著「超音波の反射透過撮像について」(1985年):https://grantome.com/grant/NIH/R01-CA041579-01
フィリップ・グリーン(Green, P.)ほか著「反射と透過を組み合わせた超音波撮像」Ultrasound in medicine and biology(1991年):https://doi.org/10.1016/0301-5629(91)90049-3
世界保健機構(World Health Organization:WHO): https://www.who.int/medical_devices/global_forum/I03.pdf?ua=1
NIBIB「超音波の仕組みについて」映像:https://www.youtube.com/watch?v=I1Bdp2tMFsY
カール・テオドール・ドゥシク(Karl Theo Dussik):http://www.ob-ultrasound.net/dussikbio.html
イアン・ドナルド(Donald I)、ジョン・マクヴァイカー(MacVicar J)、トーマス・グラハム・ブラウン(Brown TG)著「パルス超音波による腹部腫瘤の検査(Investigation of abdominal masses by pulsed ultrasound)」、Lancet(1958年)、1188–95号