テクノロジー、サービス提供、コストなど、あらゆる面に考慮する盤石な緊急対応システムモデルを提供
「75年間のイノベーション」シリーズでは、SRIが設立された1946年から現在に至るまでの数々の画期的なイノベーションを取り上げます。SRIの英語ブログでは、2021年11月の75周年を迎える日まで、毎週1つずつイノベーションに関する記事をリリースしています。この日本語ブログでは、その中からいくつかを日本語にてご紹介します。
911に電話をかける:SRIはどのようにしてアメリカの緊急通信インフラを構築したのか
「911」の緊急通報システムは、数え切れないほどの命を救ってきました。このシステムは、米国の緊急対応と災害対策サービスの一部を構成していて、911には年間2億4千万件もの緊急案件が通報されます。1つの電話番号ですべての緊急事態に対応するというシンプルなアイデアが基になっていますが、このようなシステムの開発は困難を極めました。「911緊急通報システム」の背後には、SRIインターナショナルのノウハウが詰まっています。
1つの番号ですべてを取り扱う:911コールのシステム設計とコスト計算
1950年代、全米消防長協会(National Association of Fire Chiefs)は、火災を通報するための一元的な電話番号の付与を要求しました。そして1958年にはアラバマ州で最初の911緊急通報が実施されました。その10年後、「法執行と司法行政に関する大統領委員会-President’s Commission on Law Enforcement and Administration of Justice」は緊急対応にかかる時間の短縮を請求し、「電話会社は警察に通報する単一の電話番号を大都市圏ごとに、そして最終的には米国全体で定めるべきである」と提言しました。
このような一元的なアプローチには、技術的な観点だけでなく、一つの番号ですべての緊急事態に対応するというシステム全体の高度な相互連携が根本的に必要とされました。1968年にはAT&Tが「911」を設定し、全米の地方自治体が緊急通報に使用できるようになりました。911は覚えやすく、すぐにかけることができ、今まで使われていなかったという理想的な番号でした。
このように広範囲に及ぶシステムを設計することは非常に難しいことでした。このシステムは「安全に関わる組織」、「自治体の管轄権」、「電話会社のサービスエリア」との相互連携をスムーズに行わなければならないため、複雑さが更に増していました。電話番号はシンプルですが、この単一の緊急電話番号からの通報を管理するバックエンドシステムはシンプルなものではありません。SRIインターナショナルは、全国に散らばる発信者と、発信者の地域の緊急通報サービスとを接続する単一の電話番号を設定することが非常に難しいことから、相互に関係する数多くの要素の連携の必要性を認識していました。
1979年には法執行支援局(LEAA:Law Enforcement Assistance Administration)がSRIインターナショナルに発注した契約の成果物として、技術マニュアル「911システムの設計とコスト計算(The Design and Costing of 911 Systems)」が発行されました。このマニュアルは連邦政府、州政府、および地方自治体当局が全国共通の緊急通報電話番号(911)サービスを構築するプロセスの詳細設計を提示しています。この中では、サービスの要素として4つの基本的な原則(原理)を示しています。
• 原則1:技術的な特性について
通信システムに必要な機器や設備について記載しています。
• 原則2:運用上の特徴について
着信処理、出動、情報システムの統合プロセスについて記載しています。
• 原則3:管理上の特徴について
システムの技術、運用、予算についての各側面をコントロールする管理方法と契約について記載しています。
• 原則4:財政的な特性について
システムの計画、導入、運用にかかるコスト検証について記載しています。
マニュアルの各章では、911緊急通報サービスの設計・開発に関する具体的な内容を取り扱っています。各章の内容は以下の通りです。
• サービスの技術的要素および運営要素の設計
• 911サービスの選択的ルーティングの設定
• サービスのコスト見積りの設定
• 技術面以外の考慮要素、システム管理上の代替案や予算策定、一般市民への周知やスタッフの研修を含む
このマニュアルに反映された考え方と詳細な内容に基づいて、米国全土にわたって構築された緊急通報システムは成功を収め、盤石なものとなりました。このシステムの重要な点は以下の通りです。
運用方法:これには「直接出動」と「コールの転送」が含まれます。マニュアルにはこの2つの要素について詳しく記載されており、ベストプラクティスの構築とレスポンスタイムの最適化に貢献していました。また、運用方法には、「もしもの時の対応方法」も含まれています。これは、一般の人々を対象とした様々な要請が想定されるサービスでは不可欠なことです。マニュアルでは数理モデルを提示していますが、嵐や地震などの自然災害で緊急通報が急増した場合の通報量を予測することは困難です。ですが、このマニュアルでは前提条件をマッピングして通話料を推定する「近似法」を提供しています。
公権力行使共同協定(Joint powers agreement):自治体間を仲介して中立的なコントロールを提供するメカニズムです。この協定は、自治体間の力量差の緩和に寄与するとともに、予算作成の公平なプロセスを提供します。
911の「いま」と「未来」について
2018年、NG911 NOW連合(NG911 NOW coalition)は次世代の911(NG911)サービスに関する報告書を議会に提出しました。この包括的な報告書では、911緊急通報システムにおいて「テクノロジーの進化」が果たす役割を検討しています。この報告書には、写真やストリーミング動画など新しい形態のデータを提供して救急隊員を支援することが必要であると強調されています。911緊急通報システムは進化し続けていますが、SRIインターナショナルが示した初期の原理は現在も緊急応答システム提供の基準となっているのです。
困っている人をいかに救うかということは、強靭で団結した社会の証です。一元化された緊急応答システムは、この団結の一端を担っています。米国では911緊急通報システムは迅速に救助を求める方法であり、電話一本で助けが得られるという安心感を提供しています。
参考資料:
ABC News Toddler, 3, makes life-saving 911 call after mother collapses: https://abcnews.go.com/US/toddler-makes-life-saving-911-call-mother-collapses/story?id=55614796
President’s Commission on Law Enforcement and Administration of Justice, The Challenge of Crime in a Free Society, February 1967
T.J. Jung and T.I. Dayharsh, The Design and Costings of a 911 System — Technical Manual, US Department of Justice, September 1980, SRI Project 7543 Task 4.1 (Revised)