大学生のオンライン教育の改善を目指すSRIの共同研究


Postsec Collabは教育と学習を強化することで、学生の成果を向上させるとともに、社会的格差を縮小することを目指す


コロナ禍以降、多くの大学がバーチャル学習を拡大してきましたが、多様性のある学生群にとって、オンライン学習は良好に機能していない、また同じようにも機能してはいないということが研究で明らかになっています。それどころか、合格率が低下したり、孤独感を強めたり、既存の不平等を悪化させたりする可能性があるのです。

SRIのシニアプリンシパル研究員でDigital Learning and Technology Policyプログラムの共同ディレクターであるRebecca Griffithsは、次のように述べています。「研究によると、一般的にオンラインコースでは学生の合格率が低下することが見られ、グループ間の格差が拡大することがあると示唆されています。教育の未来が大きく変化していることを考慮すると、バーチャルな教育環境をいかに改善・革新していくかがより重要になっています」

オンラインの環境で大学生が目標を達成できる方法の研究において、SRIの研究者たちはPostsec Collab (Postsecondary Teaching with Technology Collaborative: 技術活用による中等教育以後の段階の教育への協力)に参加しています。このPostsec Collabは、SRIとコロンビア大学のコミュニティカレッジ研究センター、Achieving the Dream(米国最大のコミュニティカレッジネットワーク)、ならびにアクセスの幅広い9つの大学が行っている共同プロジェクトです。

Postsec Collabは教育関係者や学生とともに、既存の政策や実践を分析して実験を行っています。これにより指導や学習を強化して学生の成果を向上させるとともに、人種や経済的地位による格差を是正する教育モデルを開発します。

Postsec Collabは特にSTEMコース(理系コース)に着目しているのですが、これは理系の不合格率が比較的高い傾向にあること、また、看護学や工学、情報技術などの学位の基礎となるコースであるため、低所得層の学生がより高収入を得られる職業に就く後ろ盾となるからです。

オンラインコースの多くは、授業時間のスケジュールがなく、学生が先生と顔を合わせる機会がほとんどないという、繋がりのない状態で授業が行われます。Postsec Collabの研究チームは、学生が学習過程の管理をより積極的に行い、履修した授業で単位をとれるよう、エビデンスに裏打ちされた方法を見出し、このスキルを学生たちに身に着けてもらいたいと思っています。

新しい教育・学習方法の開発

この3年間、研究チームは一連の研究を実施しており、学生が目標設定や効果的な時間管理などの具体的なスキルを身につける方法を検証してきました。加えて、教員が生徒の学習戦略を調整することや、成長思考を促すこと、そして帰属意識を構築できるような方法も検証しています。

当初仮説の1つは、これまで疎外されてきたコミュニティの出身である学生は、大学のSTEM講座に所属できているのか、自分の居場所があるのかどうか疑問に思ってしまう傾向が強いのではないかというものです。この研究によると、効果的な戦略として、ピアサポートを整備すること、上級レベルの学生の成功経験を共有すること、過去の成績を振り返って目標を設定するよう学生に対して求めること、成功する戦略についての授業を実施し、その応用を支援すること等が示されました。

「バーチャルな教育環境をいかに改善・革新していくかが、より重要になっています」―Rebecca Griffiths

「大学教員の中には、大学に入学するまでに、学生たちが自ら学びを管理する方法を身に着けているはずだと思い込んでいる人もいるかもしれません。しかし、大学という教育機関は非常に幅広い背景を持つ学生を対象としているというのが現実です。大学に戻る社会人もいれば、子どものいる人もいる、フルタイムの仕事についている学生や留学生、第一世代の学生(親が大学を経験していない学生)、そして大学に通うことそのものに対して疑問に思っている学生すらいるのです。オンライン学習は、このような課題をさらに悪化させる可能性があります」とGriffithsは述べています。

学生生活のナビゲートを支援する

多くの大学がオリエンテーションなど、学生が大学やオンライン学習に慣れるためのシステムを用意していますが、これらは学業とは切り離されて行われていることが一般的であるとGriffithsは指摘しています。例えば、生物学入門のコースで苦戦している学生に、学んだことを結びつけて適用しようといっても、それは難しいのではないでしょうか。

学生を成功に導くにあたり、オンラインコースでは教員の存在感を高め、学生同士が繋がる機会を設ける必要があるとGriffithsは述べています。大学は、学生が自ら学びを管理できるようなツールを提供するとともに、挫折を乗り越えて成長を促す環境を整えなければなりません。Postsec Collabは、教員や学生にこれ以上負担をかけることなく、大学教員がこれらのことを自らの授業に取り入れられるような指導モデルの開発に取り組んでいます。

「このシフトのためには、教員の仕事に対する考え方を転換することが必要です。バーチャルの講義では、単に授業をする以上のことが求められます」とGriffithsは述べています。


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