新型コロナウイルス感染症がもたらした社会的ショックに続いて、体系的な人種差別が存在するという厳しい現実が長期間にわたる様々な出来事から明確に示されたことで、現代社会に存在する多くの不平等が浮き彫りになりました。「普通の状態」に戻ることを望む人もいるかもしれませんが、これまで「普通」と考えられていたものは明らかに公平ではなかったのです。これからは公平性を基盤とする、次のニューノーマルを創り出す必要があります。そして、より公平な教育システムの構築が、これからの「ニューノーマル」には欠かせません。
まず思いつく分野は、教育の情報化(EdTech/エドテック)です。数十年にわたり、EdTechは「より効果的で公平な教育体験を実現する」という約束を掲げてきました。この約束は、最先端のテクノロジーによる「教育の再考」を目指している人々をはじめ、依然として多くの人に影響を与えています。しかしながらテクノロジーには、より公平な(不公平ではなく)学習環境を創出する上で重大なハードルがまだあります。
そのようなハードルの一部は、ウイルス流行中の緊急リモート授業への移行の際に明らかになりました。たとえば、教育を提供する各コミュニティーはアクセスの重大な不平等を解消することが必要です(コンピュータ、信頼性の高い高速インターネット、オンライン学習の活用に必要なデジタルリテラシーとサポートへのアクセスなど)。新型コロナウイルス感染症の流行への対応として、このような不平等に対応した貴重な取り組みの例はありますが、不平等は依然として存在し、看過することはできません。コロナ禍において最も高いリスクにさらされている児童・生徒の多くは、インターネットへの接続機会が最も少なく、教育におけるテクノロジーの利用を拡大しようとする傾向は、現存する社会の不平等をさらに悪化させることになります。
ハードルの中でもあまり目立たないのは、おそらくEdTechの設計プロセスを起因とする内容(コンテンツ)へのアクセスに対する不公平でしょう。教育テクノロジーの多くは、少数の教育者の意見を踏まえて技術者により設計されます。その結果、従来の慣例的な学校教育のオンライン版を活用できる児童・生徒に最適なソリューションが生まれます。教育者の意見は重要ですが、調査に基づくものやコミュニティに基づくものなど、不平等改善のために取り入れることが必要と思われる様々な意見も同様に存在します。それらは、研究に基づくものもあれば、コミュニティに基づくものもあるでしょう。児童・生徒の多様性(SRIが得意とする専門分野)を考慮した設計には、過去に手がけたものとは異なり、教育界全体でのコラボレーションが必要です。少数の技術者が教育の未来を開発できるという考えを捨て、さまざまなグループの視点と専門知識を統合することが実現すれば、すべての児童・生徒が教育テクノロジーのメリットを完全に享受することができるでしょう。
最終的にすべての児童・生徒に対してテクノロジーの可能性を解放するには、以下のような問題に対処するさまざまな視点を活用する必要があります。
• 質の高いインクルーシブなオンライン学習体験を設計・実践するために、現在の教育従事者の能力を体系的に強化する方法。
• すべての児童・生徒が自らの可能性の限界まで学べるようにするために必要なサポートの内容。
• 今後さらなる展開を行うために、現在存在する、あるいはまだ構想されていないEdTechの中でどれをを優先する必要があるかの検討。特定のスキル向上を目的として、パーソナライズした適応学習環境の構築などの分野で多大な努力が尽くされているものの、テクノロジーを使用した学習の有望なチャンスの多くは、共通して以下のような利点を活かしきれていません。
▹ 児童・生徒、コミュニティ、そして文化に基づく「知識基盤」の構築。これは、差異を是正が必要な欠陥と見なすのではなく、文化の違いと過去の経験を活かすことを指す。
▹ プロジェクトベースの学習(児童・生徒が重要な知識やスキルを意味のある形で応用できるよう、現実的な設定のプロジェクトを使用して学習の場をつくる)
▹ 共同学習(他の児童・生徒と協力して概念を理解し、問題を解決することを通して、より深く学び、多様な考え方に触れ、思い違いを正し、コミュニケーションや社会性を向上させる)
上記の方法でテクノロジーを活用するには、これまでの教育慣例を大幅に変える必要があります。
もっとも、最近の出来事の中にも、既存のやり方を再考しようとする取り組みが幅広く見られるという明るい兆しがあります。たとえば、教師はリモートのみで授業が行われている間も児童・生徒とのつながりを維持しようと最善を尽くし、多くの教育政策立案者や教育者、その他の関係者は、教育における公平性の意味とその実現方法について検討しています。
「これからのニューノーマル」に備えるための、より公平でレジリエンスの高い学習システムの構築にあたっては、EdTechの設計者が教育実務者・指導者、学習科学の研究者、児童・生徒や家族、教育の公平性を専門とする学者と協力できるようにSRIが支援していきます。
SRI Educationについて、詳しくはwww.sri.com/education-learningをご覧ください。
著者:Phil Vahey, Ph.D./ SRI Education, 協力:Jim Vanides, M.Ed./ Senior Education & Industry Consultant