新たな治療薬でマラリアの予防を目指す


新しい注射用製剤は手の届く価格で、投与も容易である


約50年前、SRIは初期の抗マラリア薬の一つであるハロファントリン(Halofantrine)を開発しました。マラリアは現在でも年間死亡者が数十万人と推定される生命を脅かす病気ですが、その治療は大きな進歩を遂げています。

しかし通常はマラリアの治療薬は錠剤で、毎日もしくは毎週服用しなければなりません。薬代が負担になることもあれば、服用し忘れたり、服用するタイミングを間違えたりして、治療法を守れないことも多くあります。世界保健機関(WHO)の報告によると、一部の地域ではマラリア原虫が複数の抗マラリア薬に対する耐性を得たために抗マラリア薬が効きにくくなっており、その原因の一端は、治療が完了しなかったことにあるとされています。

現在SRIの研究者たちは、特に低所得や農村部の人々にとってより良い選択肢となる可能性のある、新しい治療法を開発しています。

手の届く価格の製剤で予防を目指す

SRIのPharmaceutical Sciences(製薬科学)LabのシニアディレクターであるGita Shankarとそのチームは、手の届く価格で常温保存が可能な抗マラリア薬の製剤について研究しています。この製剤は1回注射するだけで、蚊が媒介するこの病気から数カ月間身を守ることができます。つまり、もはや各人は薬の飲み忘れを心配する必要はなくなります。加えて、この製剤は耐性ができにくい性質があることから、薬剤耐性が存在する地域でも効果が期待できます。

「私の夢は、最終的にマラリアを撲滅することです。そして、私たちはこれに向かって進んでいると確信しています」―Gita Shankar

Shankarは、「これはマラリア撲滅のための金脈です。マラリアが発生する季節全体を通して、耐性を生ずることなく人々を守ることができるのです」と述べています。

今年初めにEuropean Journal of Pharmaceutical Sciences誌に発表した論文でShankarとその同僚は、この新しい注射用製剤が抗マラリア薬ELQ-331をゆっくりと血流に放出できることを実証しました。この製剤は、マラリア原虫に対して長期の予防薬として作用するのに十分な高濃度の薬剤を維持できていたのです。

新しい製法を共同で開発する

マラリア原虫を撃退する薬剤の部分は、ポートランドVAメディカルセンターとオレゴン健康科学大学(Oregon Health & Science University:OHSU)に所属するMichael K. Riscoe教授と教授の研究チームによって設計・合成されました。Riscoe教授のラボではこの研究に対し、米国退役軍人省(U.S. Department of Veterans Affairs)、米国立衛生研究所(National Institutes of Health: NIH)、Medicine for Malaria Venture(MMV)から資金援助を受けています。OHSUのチームで分かったことは、体内に長期間留まる製剤を開発することは非常に難しいということでした。

「薬剤を投与してその効果を長期間持続させることは、本来不可能なことでした。私のグループの専門分野は、薬物を効率的に標的化することです。私たちは、この難しい分子を注射剤の形で投与し長い時間をかけて体内を循環させられる製剤を開発することができました」とShankarは述べています。

ShankarとSRIのチームは、80日を超える期間、薬剤が効果のある水準で体内を持続的に循環してマラリアを予防する新しい製剤を開発しました。

臨床試験に向けて

Shankarによると、この薬剤はまだヒトで試験をする段階ではありませんが、製造規模の拡大とともに、安全性と有効性を試験する方向で現在進めているということです。安全性と有効性が確認されれば、臨床試験に移行することができます。

「現行のマラリア予防薬には、耐性や患者の服薬順守、コスト、流通といった課題があります。ですが、この薬がこうした障害を克服してくれることを私たちは大いに期待しています。私の夢は、最終的にマラリアを撲滅することです。そして、私たちはこれに向かって進んでいると確信しています」とShankarは述べています。


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