未来の衛星通信を改善する電離層シンチレーションのモデリング

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SRIは地球の上層大気についての理解にどのように貢献しているのか


高緯度の場所でいくつかの条件が整えば、夜空を見上げるとまばゆい光が舞うオーロラを見ることができます。蛍光発光の揺らぎであるオーロラは、荷電粒子が地球の大気と相互に作用して原子や分子から電子を奪い、エネルギーを放出することによって発生します。オーロラは、地球の磁場が太陽からの荷電粒子を加速し、大気中に集中して送り込まれる極点の付近でしか見ることができません。

オーロラの背後にある「電離」という現象は、大気中にさまざま影響を及ぼしています。例えば、太陽放射や宇宙線は常に地球の大気を通過しており、電離した粒子を作り出しています。一般的に、これらの粒子はすぐに再結合しますが、上空の高いところでは粒子の密度が著しく低いので電離が持続することがあります。これが「電離層」と呼ばれる領域です。

電離層は通常、地表から100kmから1,000kmの上空にあり、地球の大気と宇宙空間の境界をあいまいにするものです。この領域では、大気が中性の粒子、原子イオンや分子イオン、電子が混在するプラズマのような動きをするようになります。高層の大気においての荷電粒子の密度が高ければ高いほど、その動きが劇的に変化します。

荷電粒子(マイナス電子とプラスイオン)は中性粒子とは大きく異なり、太陽や地球の磁場と相互に作用して内部電界を発生させます。そのため、電離層内では気体が流体のように動くのではなく、磁石を含んだ流体のように動き、電場や磁場に反応して常に押し引きしています。
これは一見とても無秩序のように見えますが、それでも電子の密度が均一でないため、プラズマ内に構造物が形成されています(電子数の多い領域と少ない領域があります)。この構造物もまた、地球の磁場の関係上、太陽放射と大気の相互作用が大きい極域でより多く見られます。

電離層通信の遮断

残念ながら、キロメートル単位以下の小規模なプラズマ構造物は、高層大気を通過する電波を妨害してしまいます。ガラス窓を通過する光を想像してみてください。ガラスは光を吸収しませんが、その構造が均一なので光が散乱、反射、屈折することはほぼなく、まっすぐ通過することができます。ここで、ガラスにヒビが入って均一な構造が崩れてしまう様子を思い浮かべてみてください。透過した光はヒビに沿って不均一な表面で反射するので、向こうを見通すことが難しくなります。光は、均一な構造物の中をまっすぐ透過する能力に大変優れているのです。

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RISR-C and RISR-N (Photo credit: Craig Heinselman)

このような電波と小規模なプラズマ構造物との相互作用は、電離層シンチレーションとして知られています。電波が電離層内のプラズマ構造に屈折・散乱することで、信号の振幅や位相に急激かつランダムな変動が発生します。

この阻害例として、シンチレーションによってGPSシステムの精度が低下したり、大気の状態が悪くて位置情報の計算ができなくなったりすることがあげられます。

現代の通信衛星や測位衛星は大気を通過する信号を常に送受信していることから、シンチレーション規模のプラズマ構造物を作り出す条件を理解することは重要です。この知識を得られれば、これらのシステムが今後電離層シンチレーションの影響を受けにくくするようにできるかもしれません。

SRIインターナショナルのCenter for Geospace Studies(CGS:ジオスペース研究センター)では、このような考えのもとで研究を続けています。このセンターでは、地球の高層大気を対象とした研究を実施しており、宇宙科学に関する発見への道を開くことにつながるソリューションを見出し、データを提供する後押しをしています。

小規模なプラズマ構造物の形成に関する研究は、CGSのリサーチエンジニアであるLeslie Lamarcheが、エンブリー・リドル航空大学(ERAU:Embry-Riddle Aeronautical University)の物理科学部(Department of Physical Sciences)およびCenter for Space and Atmospheric Research(CSAR:宇宙大気研究センター)のKshitija Deshpande博士およびMatthew Zettergren博士と共同で執筆した最新の論文の焦点となりました。

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RISR-N(a)およびRISR-C(b)FoVの中心にあるビームからの電子密度測定
値は極冠パッチ付近でのシンチレーションの観測とモデル化で考慮されたイベント前後の一定期間

このチームは、極冠上空の小規模なプラズマ構造物の形成と通過する信号との相互作用を説明したモデルを、地上受信機で検出したシンチレーションの実観測と比較しました。

この研究は、米国国立科学財団(NSF)からの助成金によって支えられており、エンブリー・リドル航空大学のVega High-Performance Computing Clusterと、SRIのCGSが管轄するResolute Bay Observatory(レゾリュート湾天文台)のデータを使用しました。この天文台はNSFのUpper Atmospheric Facilities Program(高層大気圏施設プログラム)の資金で運営・管理されています。

極冠パッチと勾配駆動型不安定性

極冠上空の電離層は極めてダイナミックであり、様々な規模のプラズマ構造物が見られます。極冠パッチは、極域に形成される一般的な大規模構造物(基本的には高密度プラズマの塊)で、幅数百kmに発達することもあります。また、様々な不安定性メカニズム、特に勾配駆動型不安定性(GDI)により、小規模の(シンチレーション)プラズマ構造物を生成します。

GDIは、パッチの特徴(勾配、絶対密度、速度など)をいくつかあわせ持つ小規模な構造物を生成すると期待されていますが、このような構造物がいかに発達してシンチレーションを生成するかは、非常に複雑です。CGSの研究では極冠パッチにおける小規模なプラズマ構造物の形成と、その結果として生じるシンチレーションシグネチャの双方を理解するために、観測によって直接得た最新のモデルを用います。

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RISR FoVに見られる、このケーススタディで考慮されている極性パッチ。RISRビーム位置と測定距離300kmが表示され、18:00-19:00の軌跡(灰色の線)と18:46の位置「x」がこの研究で検討されている4つの結合から表示されています。CHAIN受信機とCETRO受信機はどちらも湾に位置していますが、CHAINはさまざまなGPS衛星から送信された信号を検出し、CETROはそのCASSIPEビーコンを検出します、CHAIN-GPS G10(緑)、CHAIN-GPS G15(紫)、CHAIN-GPS G18(橙)、CERTO-CASSIOPE(ピンク)。パッチが菅sくされた全期間の動画が利用可能です。

結果を地球に持ち帰る

この2つのモデルの結果を、配置された多周波地上受信機のシンチレーションデータと比較しました。SRIはNSFとの協力協定を介してアメリカ大陸北端の極地にあるレゾリュート湾近辺でレーダーシステムを1台運用していますが、同じ敷地内にはSRIが建設した瓜二つのレーダーシステムが1台あり、これはカルガリー大学が運用しています。

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Resolute Bay ISR seeing through the fog (Photo credit: Craig Heinselman)

レゾリュート湾非干渉性散乱レーダー(Resolute Bay Incoherent Scatter Radars、RISR)の測定結果は、イオン-中性粒子相互作用の地球宇宙環境モデル(Geospace Environment Model for Ion-Neutral Interactions、GEMINI)として知られる物理ベースのプラズマモデルに使用されました。GEMINIは理想化した極冠パッチ内とその周辺の小規模なプラズマ構造物の発達をシミュレーションします。次に、上層大気の衛星-ビーコン電離層シンチレーションに関するグローバルモデル(SIGMA、Satellite-beacon Ionospheric scintillation Global Model of the Upper Atmosphere)が信号通過のシミュレーションを実施して、構造物形成の様々な段階におけるシンチレーションの影響を予測しました。

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不安定性が進行するにつれて、300km前後の高度スライスでのGEMINIシュミレーションからの出力。パネルa,b,cはシュミレーションエリア全体を示し、d,e及びfはビューを拡大して表示して小規模な構造と急な勾配が強調されています。

これらのシステムの技術は、先端モジュール式非干渉性散乱レーダー(AMISR、Advanced Modular Incoherent Scatter Radar)と呼ばれるものです。CGSはAMISRのデータから電離層内の構造物を測定でき、ここからプラズマの密度と速度を確認できます。AMISRの技術はまた、SRIのスピンアウト企業であるLeoLabs の基盤となっており、人工衛星を保護し、地球の低軌道上にあるスペースデブリとの衝突を回避することに役立っています。

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モデル化したシンチレーションシグネチャは、3種類の周波数についてレゾリュート湾に設置した受信機のシンチレーションデータと比較され、プラズマ構造物の特徴とレーダー信号への影響を推測しました。これらの受信機は、軌道上の衛星から送信される信号を高分解能で測定して、電離層シンチレーションによる信号の変動を追跡します。近づけば近づくほど、現実の現象をよりよく擬態したモデルとなります。

シミュレーションと観測のシンチレーションデータには、ピーク間の振幅に類似性が見られたものの、スペクトルには大きな相違がありました。したがって、極冠パッチ内の小規模な構造化の背後にあるプロセスを確実に特定するためには、さらなる作業とより詳細なモデリングが必要です。しかし、この研究は、直接測定に基づく電離層モデリングにおいて重要な方向性を示すものです。

参考資料:
L. J. Lamarche, K. B. Deshpande, and M. D. Zettergren
Observations and modeling of scintillation in the vicinity of a polar cap patch
J. Space Weather Space Clim., 2022


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