現行の技術では難しい液体原材料の噴霧を可能にする新システムを開発

ローラーを使って液体の原材料を噴霧するフィラメント・エクステンション・アトマイザー

この新しい噴霧乾燥技術は、規模の大きい業界でエネルギーコストを大幅に削減し、生産効率を向上させる可能性がある


食品、化学、製薬などの業界では、多くの液体原材料が噴霧乾燥によって微粉末にされ、錠剤や粉末、カプセル、塗料、乾燥食品などに使用されています。

しかし、問題は、ノズルを用いた現在の乾燥方法が多くのエネルギーを必要すること、そしてメーカーが密度や粘度の高い原材料を乾燥させたいときにはその方法が機能しないことです。「密度や粘度の高い原材料、特に水分の含有量が50%を下回るときは、既存の技術による噴霧には限界があります。密度の高い原材料から水分を蒸発させるには、膨大なエネルギーが必要なのです」とSRIの機械・流体システムグループ(mechanical and fluid systems group)のアソシエイトディレクターであるDavid Johnsonは述べています。

二酸化炭素排出量を低減する

SRIの新技術では、メーカーがエネルギーコストを劇的に削減しつつ、難しい原材料の噴霧が可能になりました。SRIが開発したフィラメント・エクステンション・アトマイザー(FEA: Filament Extension Atomizer)は、ノズルの代わりにローラーを使用して原材料を噴霧することで、噴霧乾燥のエネルギー消費を40%削減します。これにより、食品、化学、医薬品業界全体で二酸化炭素の排出量を150万トン削減できる可能性が見えてきました。

このシステムは、互いに接触している2つの高速ローラーの間に液体を流し込むことで機能しています。2つのローラーは回転してフィラメントを作り、液体を破断点まで引き伸ばし、破断させて微細な液滴にします。研究者たちは、システムのプロセス設定(ローラーのサイズや速度など)を変えることで、さまざまな用途に向けた異なるサイズの液滴を作ることができました。

「SRIの新技術により、メーカーは難しい材料を噴霧することができるようになり、同時に、エネルギーコストも劇的に削減できます」―David Johnson

研究チームは、FEAの噴霧技術が、特に密度や粘度の高い液体を乾燥させるときに、時間とエネルギーを節減できることを実証しました。また、噴霧することが難しい原材料の多くは伸長硬化(extensional hardening)と呼ばれる、ひずみを加えると長いフィラメントを形成する特性を有しています。FEAは、この特性に抗うのではなく利用している点が既存の噴霧法とは異なります。

経費を節減し、廃棄物も削減する

FEAの潜在的な用途としては、さまざまなポリマーや熱可塑性プラスチック、塗料、コーティング剤、また、食品や化粧品、医薬品、治療薬など幅広いものを乾燥させることが考えられます。この技術は消費財にも応用することができ、スプレータイプの次世代型化粧品やボディケア用品などが開発されるかもしれません。手のひらサイズになれば、密度の高い日焼け止めや化粧品を簡単にスプレーすることができるようになります。これにより、輸送コストの削減や使いやすいパッケージ、廃棄物の削減などのメリットが得られると考えられます。FEAはまた、これまでよりも溶剤使用量が少ない、環境に優しいスプレー式塗料やコーティング剤にも活用できます。

他の用途としては、酪農業界でチーズやヨーグルトの副産物であるホエイ(乳清)をプロテイン(タンパク質)が豊富な粉末にするための噴霧乾燥に活用できます。今のところ、ホエイを噴霧乾燥するには、50%超の水分含有量が必要ですが、SRIの研究者たちは、水分含有量が20%しかないホエイ原料を噴霧乾燥できることを実証しました。

「私たちの技術では、必要とされる水分含有量が非常に少なくて済みます。大規模な工業用途において、これは大幅なエネルギーの節減と二酸化炭素の排出削減につながります」とJohnsonは述べています。
SRIは現在、米国エネルギー省(DOE)および産業界のパートナーと協力して、この技術をさらに成熟させ、米国の食品・飲料業界全体でエネルギーの節減や二酸化炭素の排出削減ができるようメーカーを支援しています。「FEAは、流体の自然な挙動からヒントを得た、これまでとは異なる新しい製造方法を提供しています。ある種の流体は、それ自体でフィラメントを作り、液滴(ドロップレット)に分解します。私たちは、この性質を利用して、ほとんどエネルギーを必要としない微細な霧状の形成方法を開発しました」とJohnsonは述べています。

本文書は、米国エネルギー省エネルギー効率・再生可能エネルギー局(EERE: Energy Efficiency and Renewable Energy)の先進製造室(AMO: Advanced Manufacturing Office)アワード番号DE-EE0009128の支援を受けて作成したものです。ここに記載した見解は、必ずしも米国エネルギー省または米国政府の見解を表すものではありません。


Read more from SRI