量子力学を研究室から製造に移行する初めてのロードマップをSRIが発表

絶対零度近くまで物質を冷却して量子現象を観測できるクライオスタット

コンピューティングやセンシング、ネットワーキングに活用できる量子システムの本格的な製造に向けた道筋に立ちふさがる障壁が明らかに


SRIは2023年11月、量子コンピューティング、量子センシング、量子通信など、量子産業のスケールアップに不可欠な技術開発と製造の支援を目的とした初の取り組みである Quantum Technology Manufacturing Roadmap (量子技術製造ロードマップ:QTMR)を発表しました。

「SRIは長年にわたり、人々の日常生活に役立つ、最も重要な技術開発の最前線に立っており、これらの技術が社会や経済に与える影響を世界中が理解できるよう支援してきました。SRIは、産官学の共同研究者たちと共に主導的な役割を果たすべく、私たちの未来にとって大きな可能性を秘めたこの新たな分野の形成に光を当てていることを嬉しく思います。」とSRIのCEOであるDavid Parekhは述べています。

このロードマップでは、今後5年間にわたる量子システムの開発と製造を支援するために不可欠な技術と能力のニーズを特定するとともに、技術の実現や能力を幅広く考慮した技術性能の具体的な目標を設定しています。また、ロードマップの参加者が技術開発の継続的な進展に不可欠であると指摘した、技術以外の成功要因も取り上げています。これには、例としてデータ共有や特定の技術を利用可能にすることの必要性などの項目が含まれています。
このロードマップは、量子の発展が様々な産業に影響を及ぼすとともに、国家の安全保障能力を変化させる可能性があることを指摘しています。民間機関や公的機関は、QIST関連技術の開発と商業化に多大なリソースを投入しており、量子コンピューティングやセンシング、通信の分野で急速に進展しています。QISTの研究開発に対する潜在能力をフルに発揮させるには、大規模生産が可能な新しい材料やデバイス、構造、システムの開発が欠かせません。

このロードマップは、SRIのイノベーション戦略・政策センター(Center for Innovation Strategy and Policy)の主導のもと、米国標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology)の先端製造部門(Office of Advanced Manufacturing)向けに作成されたものです。SRIは、産業界や米国の国立研究所、学術界からの協力者からなる幅広いチーム(SRIが運営する量子経済開発コンソーシアム(QED-C)のメンバーも含まれます)と協力して、量子産業の実現と成長を目指しています。QED-Cのメンバーは20カ国弱の250組織に所属しており、この量子技術製造ロードマップ(Quantum Technology Manufacturing Roadmap:QTMR)の将来版を作成する予定です。

QED-CのエグゼクティブディレクターであるSRIのCelia Merzbacherは、「量子産業はまだ始まったばかりであるため、サプライヤー側は量子システムの開発者たちが購入を確約しない限りは新技術への投資には消極的であり、顧客側もまた、何が確実に供給されるのかを理解できるまでは投資に慎重になります。新しい産業分野ではどこでもこれがジレンマとなります。この分野は技術やシステムが複雑であることから、原材料や部品、製造・計測ツールやプロセスの開発を加速させるロードマップを作成するにあたり、協力することが必要であると思いました。このロードマップは、今日存在する多くの課題と今後の前進への道筋を浮き彫りにするものです。」と述べています。

SRIのイノベーション戦略・政策センター(Center for Innovation Strategy and Policy:CISP)のエグゼクティブディレクターであるRoland Stephenは、「これは重要なマイルストーンであり、量子技術を支援するSRIの活動は始まったばかりです。SRIは量子エコシステムに深く関与しており、このロードマップによって、世界中の戦略パートナーと効果的に協力することで量子技術をスケールアップさせ、量子製造のサプライチェーンを確保することができるのです。」と述べています。


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